従業員退職後に会社がすべき年金手続きとは?退職者へ渡す書類と手続き手順を詳しく解説
従業員が退職したときの手続きは複雑であり、退職に不慣れな会社だとあたふたしてしまう場面も多く発生するでしょう。
加入が義務化されている年金制度は「厚生年金」と「国民年金」に分けられ、企業が関与するのは「厚生年金」です。
退職者の厚生年金手続きは「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出」のみで済みます。
しかし、期限が定められていたり、退職者の今後の生活次第では他に提出すべき書類があったりなど、手続きを広義で捉えればさまざまです。
そこで今回は、従業員が退職するときの年金手続きや必要書類、退職者へ案内すべき年金制度についてお伝えしています。
目次
労働者が退職したあとに企業がすべき年金手続きとは?
労働者が退職するときは企業側でいくつかの手続きを行わなければいけません。
雇用保険に関する手続き
社会保険に関する手続き
税金に関する手続き
退職後の年金手続きは上記のうち「社会保険に関する手続き」に該当します。
企業側が社会保険の加入義務事業者でなければ、労働者は国民年金保険に加入しているため会社側で特別な手続きを行う必要はありません。
しかし現在は、多くの企業で社会保険への加入が義務化されているため「退職後の年金手続きはどうすれば良いのだろう?」と、悩まれている方も多いでしょう。
年金手続きは先にもお伝えしたとおり「社会保険に関する手続き」に分類され、会社側が行うべき手続きは
「労働者の退職後5日以内に健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届を管轄の年金時事務所に提出すること」です。
(健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届を提出する管轄の年金事務所は、事業所を管轄する年金事務所であり、退職者の自宅を管轄するものではないので注意してください)
また、退職者に2か月以上の被保険者期間があるときは、社会保険の任意継続ができることも伝えてあげると良いでしょう。
とくに再就職先が決まっていない従業員であれば、健康保険等に加入する手間を省けるため、かならず伝えてください。
もちろん「支払保険料等は全額退職者負担である事実」もお伝えしてあげましょう。
中には、今まで通り半分は会社が負担してくれるのではないか?と勘違いをされている方もいるので注意してください。
社会保険の脱退手続きは早めに対応
従業員が退職したときは、事実発生から5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を提出しなければいけません。
この事実発生日は資格を喪失した日が該当し、退職日の翌日から5日間以内です(12月31日に退職したときは1月1日~1月5日までの間)。
年金の脱退手続きに必要な書類は下記のとおりです。
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届(こちらからダンロード可能)
- 協会けんぽの被保険者は「健康保険被保険者証」と「高齢受給者証・健康保険特定疾病療養受給者証・健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証(交付されている方のみ)」
- 60歳以上の方が退職し、即日再雇用されたとは「就業規則、退職辞令の写し」と「雇用契約書の写し」、「退職日と再雇用された日に関する事業主の証明書」
※組合管掌健康保険の被保険者はとくに添付書類が必要ありません。
参考:日本年金機構|従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き
万が一、退職後5日以内に「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を提出しなければ、保険料が計算されてしまいます。
届出時点で遡って保険料は返還されますが、できるだけ遅れが発生しないように注意しましょう。
退職する労働者へ5つの書類を渡す
退職する労働者が迎える今後の生活次第では、年金手続きを行ううえで退職者が必要になる書類もあります。
そのため、退職する労働者に対して企業側は下記の書類を遅滞なく渡すようにしてください。
雇用保険被保険者証
離職票
健康保険資格喪失証明
源泉徴収票
年金手帳
退職証明書の請求があったときは提出が必要
とくに、退職者が退職をきっかけに国民年金保険へ加入されるときは、退職証明書が必要となるケースがあります。
退職者から退職証明書の請求があったときも、かならず遅滞なく渡してあげられるように準備しておくと良いでしょう。
また、企業側が退職する社員からかならず受け取るべきもの、受け取っておいたほうが良いものがあります。
- 健康保険証
- その他会社が貸している備品等
とくに健康保険証は、従業員が退職したあとの手続きに必要になるため、かならず返却してもらうようにしてください。
万が一、保険証を紛失していたり返却してもらえなかったりしたときは「健康保険被保険者証回収不能届」を提出しなければいけません。
提出しなければいけない書類が増え、退職後の年金手続きが面倒になりますので、かならず健康保険証は回収するようにしてください。
退職月の保険料や税金計算には要注意
厚生年金保険や健康保険は従業員が退職した「翌日」が資格喪失日になります。つまり、資格喪失日が属する前月分までの保険料等が発生するので覚えておいてください。
たとえば、従業員が12月末日時点で退職したときの資格喪失日は「1月1日」になるため、12月分までの保険料等が発生します。
仮に従業員が12月30日に退職したとすれば、資格喪失日が「12月31日」になるため、前月の11月分までの保険料が発生します。
あくまでも「退職した翌日に資格を喪失する」という点に注意してください。
退職後は14日以内に年金の切り替え手続きが必要
従業員が退職後、次の就職が決まっていない、そもそも就職する予定がないときは、14日以内に年金の切り替え手続きを行わなければいけません。
企業側が関与することは原則ありませんが、従業員の中には年金の切り替え手続きの方法や要件を知らない方も多いです。
退職する従業員に対して企業側が年金手続きの方法や必要性を伝えるのは義務ではありません。
しかし、何も知らない従業員に対して最後に教えてあげることも大切です。
また、切り替え手続きは退職から「14日以内」と定められているため、従業員のことを考えると早めに案内してあげたほうが良いでしょう。
次に、企業から退職者に対して案内すべき「年金切り替え手続き」についてお伝えします。
会社側から退職者へ案内してあげたほう良い
従業員が退職したときは、その後の生活や考え等によって対応が分かれます。
大きく分けると下記のとおり。
- ①:期間を空けることなく転職する
- ②:期間が空いて再就職する
- ③:保険を任意継続するとき
- ④:国民年金に切り替えて生活を送る
- ⑤:配偶者や家族の扶養に入って生活を送る
上記のうち①である「期間を空けることなく転職する」ときは、退職企業側、転職企業側がそれぞれ年金等に関する手続きを行えば良いです。
そのため、退職する従業員に対して年金手続きの案内をする必要はありません。
ただし②「期間が空いて再就職をするとき」は注意しなければいけません。
退職企業側は「従業員の退職後5日以内に健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届を所轄年金事務所に提出する」と、前述したとおりです。
これさえ守っていれば、企業側がなにか特別な関与をする必要がありません。
しかし、退職した従業員は、退職した翌日に資格を喪失するため、同月内でかならず何かしらの年金に加入しなければいけません。
万が一、再就職先等が決まっておらず、資格喪失日が属する月をまたいで就職等するときはかならず「国民年金保険」へ加入しなければいけません。
日本では、国民皆年金が原則となっているため、企業側が期間が空かないよう案内してあげるようにしてください。
その他、保険を任意継続するとき、国民年金へ切り替える退職者、配偶者や家族の扶養へ入る退職者の年金手続きの手順等についてもお伝えします。
企業側に案内をする義務はありませんが、退職者に問われたときに答えられるよう準備しておいたほうが良いでしょう。
保険を任意継続するときの手順と注意事項
現在加入している社会保険を退職後も任意で継続することができます。
ただし、退職した企業側の負担額はなく、すべて退職者個人で支払わなければいけないので注意するよう伝えてください。
保険料は今まで控除されていた金額の2倍になるため、
今後の就職先企業が決まっていないのであれば、出費がかさむ恐れがあります(保険料には上限があります)。
保険を任意継続するときは、
退職者が協会けんぽ支部に「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を退職した翌日から20日以内にかならず提出しなければいけません(20日目が土日祝日のときは翌営業日)。
退職企業側で協会けんぽに対する手続きを行う必要は一切ありませんが、従業員から問われたときには、上記のとおり案内してあげれば良いでしょう。
国民年金へ切り替えるときの手続き手順と必要書類
退職者が厚生年金保険から脱退し、新たに国民年金保険へ切り替えるときは「退職した翌日から14日以内」に手続きをしなければいけません。
手続き自体は市区町村役所、役場の国民年金窓口でできます。
年金手帳
印鑑
離職票(退職証明書でも可 退職日が確認できればOK)
退職者が国民年金へ切り替えるときも、企業側が特別な手続きを行う必要はありません。
ただし、退職者が国民年金保険への切り替え手続きを行うためには、離職票や退職証明書の準備をしなければいけません。
年金の切り替え期間は「退職の翌日から14日以内」であるため、企業としても早めに離職票等の提出をしてあげられるようにしてください。
また、退職日が月末ではないときは、当月から国民年金保険料が発生するため、費用の準備が必要であることも伝えてあげると良いでしょう。
なお、退職後もかならず年金へ加入しなければいけません(国民皆年金)。
国民年金の滞納等があれば、強制執行が行われるためかならず手続きを忘れないように促してあげることも大切です。
配偶者や家族の扶養へ入るときの手続き手順と必要書類
退職後に家族や配偶者の扶養に入るときは、
家族もしくは配偶者の会社へ直接問い合わせをして加入条件を満たしているか否かを判断しなければいけません。
退職元企業側で特別な手続きを行う必要はなく、
退職者と家族(配偶者)、家族や配偶者の勤め先の3者間でやり取りをすれば済みます。
なお、扶養に入る際に必要となる一般的な書類は下記のとおりです。
続柄を証明する書類(戸籍謄本等)
同居していることを証明する書類(世帯全員が記載された住民票)
収入証明書類(退職したときは退職証明書)
家族や配偶者の扶養に入るときは、退職したことを証明するために「退職証明書」が必要になります。
何度も申すように、国民皆保険である日本国において、年金の未加入期間があってはいけません。
企業側もこの意味を理解し「退職証明書の発行」を遅滞なく行うように心がけるべきでしょう。
また、それらと同時に年金に関する案内をしてあげられることで、年金の加入漏れをふせぐことができるでしょう。
まとめ
今回は、従業員が退職したときに企業側が行うべき年金手続きについてお伝えしました。
今回お伝えしたことをまとめると下記のとおりです。
- 年金の脱退手続きは「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を事業所を管轄する年金事務所に提出しなければいけない
- 健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出期限は従業員が退職をした翌日(資格喪失日)から5日以内
- 5日以内に健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出をしなければ、保険料を支払わなければいけなくなる(後日返金)
- 退職者が退職したあとに国民年金保険に切り替え手続きを行うときは「14日以内」が原則
- 国民皆保険に従って、退職後も年金へ加入していない期間があってはいけない。企業側としても、年金の切り替え手続きについて案内してあげることが大切
従業員が退職したあとに企業側が行う年金の手続きは「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出」のみです。
ただ、退職をした翌日から5日以内とのルールがあるので遅滞なく、提出しなければいけません。
また退職者が今後、国民年金へ切り替えるときなどは離職票や退職証明書の提出が必要となります。
国のルールでは「国民皆保険」があるため、企業側も退職者に対して遅滞なく必要書類を送付する段取りをしなければいけません。
企業側の年金手続きは「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届の提出のみ」ですが、
退職者の生活次第では早期に必要となる書類があることについても注意しておくと良いでしょう。
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