無断欠勤で解雇をするのはむずかしい!?解雇が認められるために必要な2つのこととは
無断欠勤を繰り返す従業員は会社との労働契約に違反しており、
債務不履行であるため「今すぐにでも解雇したい」企業側がそう思うのは至極当然のことでしょう。
しかし、一度でも雇用契約を締結した以上、そう簡単に解雇できないのが現状です。
それは、無断欠勤という契約違反を繰り返す従業員に対しても同じです。
社会人として、人として絶対にあってはいけない「無断欠勤」ですが、
その従業員にも何かしらの理由があるのかもしれません。
今回は、無断欠勤を繰り返す従業員に悩んでいる企業に対して
- 無断欠勤で従業員を解雇するために必要なこと
- 従業員を解雇する際に注意すべきこと
- 万が一、不当解雇で訴えられてしまったときの罰則
についてお伝えします。
正しく解雇をしなければ、企業側が甚大な被害を受けてしまいます。
今回お伝えする内容を参考に、無断欠勤の従業員を正しく解雇してください。
目次
無断欠勤で解雇するために必要な2つのこと
無断欠勤を繰り返す従業員であっても、
解雇するためには「客観的に合理的な理由や社会通念上相当と認められること」が絶対条件です。
無断欠勤で「合理的な理由、社会通念上相当と認められる」ためには下記の2つのことを満たさなければいけません。
連続して2週間以上の無断欠勤
無断欠勤の理由と証拠
まずは、無断欠勤を繰り返す従業員に対して解雇を通告するために必要な、2つのことについてお伝えします。
解雇理由①:連続して2週間以上の無断欠勤
2週間以上連続して無断欠勤している従業員であって「従業員の責に帰すべき事由」と認められれば、解雇ができる可能性が高いです。
これは、厚労省で定める「解雇予告除外認定基準」に該当するためです。
解雇予告除外認定基準では「労働基準監督署長は、従業員の責に帰すべき事由として除外認定申請があったときは、
当該従業員の勤続年数、勤務状況等すべてを考慮して次のことに照らして認定を判断する」と定めています。
解雇予告除外認定基準の中にはいくつかの基準がありますが、その中には「2週間以上正当な理由がなく、出勤の督促に応じない場合」と記載されています。
この解雇予告除外認定基準は、行政判断による解雇解釈基準であり、法的な拘束力があるわけではありませんが、解雇予告除外認定基準に該当するような事情は労働者側の悪質性が高いものですので、解雇の条件である客観的に合理的な理由に該当する可能性は高いと考えられます。
つまり、無断欠勤を繰り返す従業員を解雇するためには
- 2週間以上連続して無断欠勤が続いていること
- 出勤の督促に応じないこと
以上2つをクリアしなければいけません。
また、就業規則にも、解雇事由として「2週間以上連続して無断欠勤が続いていること」を記載しておく必要もあります。
解雇理由②:無断欠勤の理由と証拠
無断欠勤を理由に従業員を正しく解雇するのであれば
無断欠勤の理由
無断欠勤をしている証拠
以上の2点を明確にしなければいけません。
例えば、会社内で発生しているハラスメントが原因で無断欠勤している従業員や、
ずさんな管理体制で無断欠勤の証明ができないときは、解雇できません。
- 出勤簿
- タイムカード
- 出勤確認・督促のメール内容
などを残しておけば、無断欠勤の証明ができるため、さほど心配する必要はありません。
一方で「無断欠勤の理由」について、簡単に言えば「従業員に責を帰すべき事由がない」ケースは、
無断欠勤をしていたとしても解雇理由には該当しません。
例えば下記に該当するケース。
- 社内で発生したハラスメント
- 会社側が有給休暇を取得させない
- 退職届を受け取らない
- 病気や怪我によって出勤できない
- 災害発生による欠勤
上記ケースは従業員に責を帰すべき事由がないと判断され、解雇の有効性が認められにくくなります。
上記例はあくまでも一部の例であって、解雇理由はケースバイケースで判断されます。
もしも無断欠勤を繰り返す本人と連絡が取れるのであれば、退職を促すのも一つの手段です。
これを「退職推奨」と言いますが、従業員に対して無理に退職を促してしまうと、
違法と判断され、損害賠償を請求されてしまいます。
必要に応じて、解雇予告認定除外を受けての解雇、もしくは退職推奨を使い分けることが大切でしょう。
無断欠勤を続ける従業員を解雇する際の3つの注意点
無断欠勤を繰り返す従業員であっても、正当に解雇するためにはいくつか注意しなければいけないことがあります。
次に、正しく従業員を解雇できるよう下記についてお伝えします。
解雇までの流れ
解雇通知や解雇予告手当
普通解雇と懲戒解雇の違い
上記の注意点を守ったうえで、正しく解雇をしてください。
注意点①:解雇までの流れに要注意
無断欠勤を繰り返す従業員であっても、必ずしも即日解雇することができるわけではありません。
仮に、2週間を超える無断欠勤が続いていても、当然即時に解雇できるわけではなく
「解雇までの流れ」に注意しなければいけません。
解雇までの流れは下記のとおりです。
- 従業員への連絡・出勤の督促
- 解雇予告通知の送付
- 解雇通知
まずは、それぞれの流れの中で何をすべきなのかについて見ていきましょう。
【従業員へ連絡・督促】
まずは、従業員に対してメールや電話で連絡をして出勤の督促をしてください。
電話で連絡がつかないようであれば、メールで出勤の督促をしてください。
最終的に解雇するとなったとき、無断欠勤の証拠や出勤の督促をした証拠になります。
もしも、電話やメールでの連絡に一切の反応がなければ、自宅へ行ったり退職届を出すようメール・手紙を送ったりしてください。
【解雇予告通知の送付】
再三の連絡も無視し、出勤の督促をしたにも関わらず、無断欠勤を繰り返すのであれば、解雇が認められる可能性が高いです。
そのため、管轄の労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受け、従業員に対して解雇予告通知を送付してください。
ただし、2週間も無断欠勤を継続している従業員であれば、解雇予告除外認定を受けずに解雇することも認められています。
解雇予告除外認定を受けずに解雇するのであれば、一般的な手続きとして
30日以上前に従業員に解雇を予告すること
必要に応じて解雇予告手当てを支給すること
が求められます。
企業側がこういった不利益を防ぐためにも、解雇予告除外認定を受けられることをおすすめします。
先にお伝えした「2週間以上の無断欠勤」「従業員に責を帰すべき事由」を満たしていれば、ほぼ認められるでしょう。
【解雇通知】
解雇予告から一定の期間が経過した後は、従業員に対して解雇通知を送付します。
無断欠勤を繰り返す従業員であれば、何らかの理由で行方がわからず、自宅へ送付した解雇通知が届いていないことも考えられます。
そのため、様々な手段をとっても従業員と一切の連絡が取れないのであれば最終的な方法として「公示送達」の手続きを取る必要があります。
公示送達とは、受け取り側の所在がわからないときなどに、法的に送達したこととする手続きです。
公示送達で送付していれば、従業員宛てに届いていなくても、届いたこととしてみなします。
注意点②:解雇通知及び解雇予告手当の支払い
無断欠勤を繰り返している従業員に対しても、基本的には解雇予告や解雇通知の送付、必要に応じて解雇予告手当の支払いをしなければいけません。
(ただし、2週間も無断欠勤を継続している従業員を解雇する場合には解雇予告手当ての支払いの必要がない場合もあります。)
企業は従業員を解雇する際に下記のことを守らなければいけません。
- 30日以上前に予告すること
- 30日の期間をおかずに解雇する場合には、差額日数分の解雇予告手当を支給すること
連絡が取れない従業員であっても、即時に解雇するためには解雇予告手当を支給するか、解雇予告除外認定を受けるしかありません。
注意点③:普通解雇と懲戒解雇
無断欠勤を繰り返す従業員に対しては「懲戒解雇」としたいのが企業側の本音でしょう。
しかし、【無断欠勤=懲戒解雇】とするのは、簡単なことではありません。
無断欠勤を理由に懲戒解雇とするのであれば、社内規則に無断欠勤についての要項を示しておかなければいけません。
例えば社内規則の懲戒規定として「◯日以上の無断欠勤」と記載しておくと、懲戒解雇として認められやすくなるでしょう。
しかし、期間を定め、「無断欠勤を繰り返した者は解雇する」と、社内規則に規定してあっても、直ちに解雇が認められるわけではありません。
社内規則以上に法律が強いため、解雇をするためには「従業員に責を帰すべき事由がある」など、最低限の条件を満たさなければいけません。
「解雇ができる・できない」
「普通解雇か、懲戒解雇か」
は、まったく別の問題である点に注意してください。
社内規則に記載があっても「解雇できる・できない」は、ほぼ効力を持ちません。
無断欠勤を繰り返している従業員であっても、先にお伝えした条件を最低限満たしていなければいけません。
一方で、普通解雇か懲戒解雇にするのかは、社内規則に記載されているかどうかがポイントになります。
【社内規則に記載あり=懲戒解雇ができる】とは限りませんが、書いていないよりも有利に働くでしょう。
しかし実際には、個別事案によって判断されるため、ケースバイケース、やらないよりはまし。程度に考えておくと良いでしょう。
不当解雇として訴えられた場合の罰則
従業員を誤った方法で解雇してしまうと、企業側が厳しい罰則を受けてしまうこともあります。
一度出した解雇予告は企業側の都合で撤回することはむずかしいため、解雇を予告するときは慎重に行ってください。
もしも誤った方法で従業員を解雇してしまえば、不当解雇として慰謝料請求をされてしまいます。また、従業員の地位の確認訴訟も提起され、訴訟中にかかる賃金相当額の請求もされます。
不当解雇に刑事罰はありませんが、企業の社会的イメージや経済的損失を考えると、解雇に慎重になるべきでしょう。
不当解雇に刑事罰はない
「不当解雇」、解雇そのものに刑事罰はありませんが、
不当解雇にともなう解雇予告手当の不払いや解雇予告を行わなかった解雇については、刑事罰の罰則規定があります。
解雇予告手当て不払い・解雇予告なしに行った解雇は、
労働基準法第20条に違反し、最大で「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。
不当解雇そのものに対する刑事罰はありませんが、
不当解雇を行うまでの過程の中で違反があれば、刑事罰を受けることになるので注意してください。
慰謝料請求されてしまう可能性
不当解雇をしてしまうと、元従業員から慰謝料請求をされことがあります。
解雇にともなう慰謝料は「会社側に不法行為があったと認められるとき」に限って、支払わなければいけません。
慰謝料の相場は10~100万円前後であって、元従業員が被った精神的苦痛に対する損害賠償金を支払わなければいけません。
無断欠勤繰り返す従業員を解雇する際に、不当解雇になり得る事由として、下記のことが挙げられます。
会社に非がある(ハラスメントなど)無断欠席による解雇
解雇までの手続きに著しい不備があった
解雇予告などを行わずに一方的に解雇された
上記はごく一部の例であって、実際には上記以外の事由で慰謝料請求されてしまうこともあるでしょう。
不当解雇や従業員とのトラブルは、会社のイメージにも多大な影響を与えますので、順序やルールを守って解雇するように心がけてください。
まとめ
今回は、無断欠勤を繰り返す従業員を解雇するために必要なことや注意点についてお伝えしました。
今回お伝えしたことをまとめると
無断欠勤という契約違反を繰り返す従業員でも、容易に解雇ができるわけではない
解雇するためには「従業員の責に帰すべき事由」がなければいけない
最低でも2週間以上の無断欠勤、欠勤している証拠などの準備が必要
解雇する際には、流れや解雇予告・解雇予告通知を守らなければいけない
無断欠勤=懲戒解雇にできるかどうかはケースバイケース
不当解雇そのものに刑事罰はないが、不当解雇までの過程に罰則規定あり
無断欠勤を繰り返す従業員の中には、何らかの理由で会社側に連絡をできない人もいるでしょう。
しかし実際には、そのほとんどが退職を希望している従業員がほとんどです。
「退職したいなら退職届を出してほしい」そう思うかもしれませんが、
「できるだけ会社と関わらずに退職したい」と考えてしまう従業員も一定数いるでしょう。
解雇をするのは容易ではなく、従業員から退職届を提出してもらったほうが簡単に解決します。
しかし、退職推奨も一歩間違えれば違法になってしまいます。
無断欠勤を繰り返す従業員に対しても、企業側が気を使って対応しなければいけません。
今回お伝えした内容をもとに、正しく解雇をしてください。
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