たきざわ法律事務所

音楽教室での演奏にも著作権料?JASRAC訴訟について解説

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2017年2月、JASRAC(日本音楽著作権協会)は、音楽教室で教師や生徒が管理楽曲を演奏することについて「著作権使用料」を徴収する方針を示しました。これに対し、音楽教室を運営していたヤマハなどの企業が「著作権使用料を支払う義務はない」と主張し、提訴しました。

 

この判決については、ネット上はじめ各所でJASRACや音楽教室に対して様々な意見が飛び交っています。しかし「法律上の論点はどこにあるのか」を理解しなければ、正しい議論になりませんので、本稿をお読み頂くことで、より議論を深め、より音楽、ひいては「文化の発展」(著作権法1条)について考える一助となれば幸いです。

 

著作権の基本知識について解説

まずは「著作権」に関する基本知識について解説させて頂きます。

楽譜を買ってるのに!

この事件についてのコメントで散見されるのが「楽譜はきちんと買ってるのにどうして?」という疑問です。確かに「楽譜を購入した時点で、一度権利者にお金を払っているに、どうして演奏する時にもお金を支払わなければならないのか」と疑問を持つことは理解できます。

 

例えば「特許」では、製品の製造時に特許の使用料を支払いますが、その製品を購入した人が、製品を使用する際に、別途使用料を支払う必要はありません。パソコン教室を開いても、パソコンの使用料を特許権者に支払う必要はないのです。

 

では、なぜ「著作権」では楽譜を購入したとしても、演奏時にまた使用料を支払う必要があるのでしょうか?この違いは、法律で定められている利用方法にあります。

特許法では購入後の製品の利用については規定されていない

特許法も、著作権法も「権利者が権利を主張できる利用方法」が定められています。これは言い換えると「定めていない利用方法をしたとしても、権利者は権利を主張できない」言えます。

 

特許法では「製品の製造や販売については権利者の許諾なくすることはできない」と定められていますが、販売された後に、その製品を使うことについては特に規定されていません。なので、先程申し上げた通り、例えばパソコン教室の運営者は、パソコンの使用料を特許権者に支払う必要はないのです(知識のある方からは、方法の特許や消尽についての指摘が入りそうですが、ここでは簡易的な説明に留め、あえて省略させて頂きます。)。

著作権法では「売る行為」「演奏する行為」の両方が規定されている

一方、著作権法では「楽曲の楽譜を売る行為」と「楽曲を演奏する行為」の両方が「権利を主張できる利用方法」として定められています。なので、どちらの利用方法を行う場合でも、権利者の許諾が必要で、それぞれに使用料が発生しうることになります。

楽譜の販売時に、まとめて使用料を取れば良いのでは、、

著作権法の場合、楽譜を購入する際に、まとめて使用料を取ればいいのに、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかしこれらは、利用方法が異なるという点から、ある方にとっては不利になってしまうため、成立しません。

 

例えば、

  • A:楽譜だけを利用したい人
  • B:楽曲の演奏をしたい人
  • C:楽譜を利用して、かつ楽曲を演奏したい人

の3パターンの人がいたとします。

 

このとき、全員がCであれば、確かに楽譜を購入する際に、演奏時の使用料も含めればそれで済みます。が、ABの人にとってはそれぞれ「利用しない分の費用まで負担する」ことになります。そのため「行為」を細かくわけて、それぞれに対応した使用料を取るという仕組みになっています。

演奏すると必ず使用料がかかるの?

楽譜を利用する権利と、楽譜を演奏する権利は別、と聞くと「楽譜買っても使えないじゃん!」と思われる方もいるかもしれません。が、そんな事はもちろんありません。演奏の使用料については「楽譜を見て演奏する行為すべて」に権利が及ぶ訳ではないからです。

 

権利者の許諾が必要な演奏は、

 

”公衆に直接見せ又は聞かせることを目的とするもの(著作権法22条)”

 

に限られます。「公衆」とは、特定多数の人、または不特定の人に対して演奏を行うことを指します。なので、例えば自宅で練習したり、お風呂で鼻歌を歌ったり、友達を数人招いたパーティで楽器を演奏したとしても、「公衆」が相手ではないので、権利者に許諾を求める必要はありません。

 

逆に言うと、「公衆に聞かせること」が目的であれば、結果として公衆に聞かせなくても、権利者に許諾を求める必要が出てきます。例えば、不特定の人を対象としたコンサートを開

いて、結果としてお客さんがゼロだったとしても、使用料は発生するという理屈です。

 

また公衆が相手でない場合以外にも著作権法は「著作物の流通のために、権利者の許諾が必要な演奏であっても、一定の場合には許諾無し」で利用できるとしています。

 

例えば、「営利を目的としない上演等(著作権法38条)」があります。これは、「非営利目的で、観客から料金を徴収しない場合には演奏ができる」という規定です。

 

音楽の授業や、学芸会で楽器を演奏したり歌ったりすることはこれ(=非営利目的で、観客から料金を徴収しない場合)に当てはまるため、権利者の許諾を得る必要がありません。

 

しかし、今回の事件で問題となっている音楽教室は「企業が営利目的で行っているもの」なので、音楽の授業とは異なりこの規定が適用されません。

 

「教育機関での利用は許されているだろう」というコメントも散見されました。確かに、学校の授業において著作物を複製することができるという規定(著作権法35条1項)もありますが、演奏行為に関する規定ではありません。またそもそも、企業が行っている音楽教室は、塾や予備校と同じで、教育機関には該当しないため、規定は適用されません。

そもそもJASRACってどんな組織?

権利者は著作権に基づいて使用料を請求することができますが、当然の事ながら「誰が、いつ、どこで、どのように自分の曲を利用するのか」を把握していなければ請求はできません。

 

しかし、楽曲が人気になればなるほど利用件数が増えるため、権利者自身が、許諾を出したり、管理したりすることは現実的ではありません。また利用者側からみても、楽曲それぞれの権利者の連絡先を調べて、許諾申請をして、という手続きはとても手間がかかります。

 

このような権利者、利用者、それぞれの手間を無くすために、管理団体として存在してるのがJASRACです。

 

よく悪の組織のように思われている方がいらっしゃいますが「管理団体がないと不便になる」のは権利者も利用者も同じなので、この点については正しく理解する必要があります。JASRACは「権利者だけを守る組織」ではありません。また、JASRACが法律を作っている訳ではありませんので、著作権管理団体に対する不満と、法制度に対する不満は分けて考えなければなりません。

 

ちなみに、著作権管理団体はJASRACだけではなく、NexToneやeーLisenceといった団体も存在しています。

音楽教室の主張とそれに対する判決

著作権法及びそれらを管理する著作権管理団体について簡単に説明をした上で、今回の事件について「音楽教室の主張」と「それに対する判決(=裁判所の法的見解)」を順番に、解説していきます。

 

今回の事件で音楽教室側は、音楽教室で教師や生徒が演奏することは

  • 「公衆」に対する演奏ではない
  • 「聞かせることを目的」としていない

として「著作権法上の演奏ではない」と主張していたようです。

 

生徒は「不特定の人」と判断される

前述の通り、公衆とは「特定多数」or「不特定」の人を指します。先生と生徒が1対1でピアノを教える場合、一見「特定少数」と言えるため、音楽教室側の主張が正しいと思われるかもしれません。が結果としては、本件では「不特定」と断定されました。何故でしょうか?

 

「特定」かどうかの判断は「行為者との間に個人的な関係があるかどうか」を基準になされます。一般的に、音楽教室を利用する場合、音楽教室の先生と知り合いだから生徒になる訳ではなく、誰でも申し込んで生徒となることができます。このような場合は、音楽教室からみて生徒は「不特定の人」と見るのが一般的です。

 

音楽教室ではなくダンス教室の例ですが、「生徒が公衆にあたるか」が争われた事例があります。この裁判例では、ダンス教室が

 

”受講生を募集していること、受講を希望する者は、所定の入会金を支払えば誰でもダンス教授所の受講生の資格を得ることができ、物的条件が許容する限り、何らの資格や関係を有しない顧客を受講生として迎え入れて指導を行っている(名古屋地判平成15年2月7日)”

 

ということから「社会通念上、不特定かつ多数の者に対するもの、すなわち、公衆に対するものと評価するのが相当である。」とされました(尚、この社交ダンス教室ではマンツーマンの指導も行われていました。)。

「聞かせることを目的としていない」という主張には無理がある

次に音楽教室が「聞かせることを目的」としていないと主張した事についてですが、一般的に音楽教室では、「生徒に聞かせて手本を見せる」のが目的ですから、「聞かせることを目的としていない」という主張は少し無理があるでしょう。

 

法の趣旨から「コンサートやライブのような鑑賞目的に限定している」という解釈を導くことも考えられますが、ここについてどのように裁判所が判示したのかは続報を待つしかありません。ただ、今回の判決では結論として否定されたようですから「鑑賞目的に限定する」という解釈はとられなかったものと思います。

たしかに、演奏行為をコンサートやライブのように楽曲そのものの鑑賞を目的とする場合に限定してしまうと、店舗のBGMに利用する場合や商品PRに利用する場合も、著作権法の適用範囲から外れてしまいかねず、微妙なところです。

法律を正しく理解し、遵守することが大事

今回の事件では「音楽教室での演奏にも使用料を取るのか!」とJASRACが過激な取締をした、という文脈で語られることが多いように見受けられます。が、裁判例や条文に照らして考えると、妥当な判決だと私個人としては思います。

 

多くの方が、制度をきちんと理解していない、あるいは誤解している、と感じる事件でした。少し過激な言い方をすると「そもそも他人の財産を利用してお金儲けしているのだから、利用した分はちゃんと払おうね」というだけの話のように思います。

 

前述のように、非営利で音楽教室を開くのであれば、許諾を得なくても楽曲を利用できるため、「教育目的」ということを説くのであれば「非営利」で運営すれば良いのです。

 

営利目的であっても、クラシック音楽などすでに著作権の保護期間が切れている名曲もたくさんありますから、それを利用することでも良いでしょう。最近の曲じゃないと顧客を獲得できない、というのであれば、その対価を権利者に支払うことに何の問題があるのでしょうか。「子供を育てる場合には権利者は口を出すな!」ということであれば、それは立法の問題ですので、そちらに言うべきだと思います。ただ、学習塾での参考書や問題集のコピーが複製権侵害となることとの平仄を考えると、音楽だけ特別扱いすることは難しいような気はします。

使用料は受講料の2.5%程度のようですから、単純計算で月謝5000円なら125円です。しかも、JASRACによれば、請求対象となっているのは楽器メーカーや楽器店が運営する音楽教室だけで、個人でやっているような小さな音楽教室は請求対象ではありません。

 

他人の著作物を営利目的で利用しておきながら、子供の教育を盾にして支払を拒むかのような音楽教室の姿勢には、フリーライドで利益だけ得ていこうとするような印象を抱かざるをえません。

まとめ

今回の事件のように、法律は「知らなかった」ですまされないものである一方、なかなか理解しにくいものであるものも事実です。仮に法律が現実にそぐわない、一般の考えと異なる場合であっても(憲法違反である場合などの例外を除いて)原則的には法律が有効であることを前提としたビジネス展開が求められます。

 

たきざわ法律事務所では、設立当初より知的財産を扱う企業様のコンテンツビジネスを法律の専門家としてご支援させていただいております。知的財産法は毎年のように改正され、技術の進歩に応じて新しい解釈や裁判例が出現しやすい分野ですので、ぜひお困りの際は弊所へご相談ください。

 

 

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