たきざわ法律事務所

定年後の再雇用は拒否できる?再雇用をやめさせたい場合の対処方法

この記事を書いた弁護士は…

 

 

 

 

 

 

日本の社会保障制度は、基本的に現役世代が高齢者を支える構図となっています。

 

日本では少子高齢化が進んでいるため、現役世代の人口が減少しているのに対し、高齢者の人口が増加し続けています。このままでは、社会保障制度を維持することはできません。

 

そこで、政府は高年齢者の雇用を推進し、働く意欲や能力のある高齢者には社会保障の支え手として労働参加することを期待しているのです。しかし、個々の企業にとって高齢者の雇用を維持することは、人件費の負担増加につながることも多く、決して受け入れやすい政策ではありません。

 

企業は必ず高齢者の雇用を維持しなければならないのでしょうか?今回は、定年した労働者の再雇用を拒むことはできるのかについて解説します。

 

定年後の再雇用を拒否することはできる?

再雇用を拒否

 

高年齢者雇用安定法が2013年に改正されて以後、65歳までの雇用を確保するための措置を講じることが事業主の義務とされました。この高年齢者雇用安定法によって、65歳未満の定年を定めている場合には、次のいずれかの措置を講じる義務が生じたのです。

 

  • 定年の引上げ

  • 継続雇用制度の導入

  • 定年の定めの廃止

 

定年後の再雇用の話は、これらのうち「継続雇用制度の導入」を選択したケースです。高年齢者雇用安定法が改正され、65歳までの雇用を確保することが企業の義務とされています。そのため、労働者側から再雇用の希望が出ているのであれば、年齢のみを理由として再雇用を拒否することはできないことになります。

 

さらに、改正高年齢者雇用安定法が2021年4月から施行されました。これにより、70歳までの就業確保措置を講じることが、事業主の「努力義務」とされています。

65歳までの雇用継続に関連する法規制

 

先ほどお伝えしたように、65歳未満の定年を定めている場合には、高年齢者雇用安定法により「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講じる義務が生じます。

 

ここでは、高年齢者雇用安定法で義務とされた措置の内容を紹介します。この措置の実施にあたって労働契約法が関係するため、労働契約法の雇止め法理についても解説します。

 

定年の引上げ

 

定年の引上げとは、たとえば定年年齢を60歳と定めている会社が、この定年年齢を引き上げ65歳と変更するなどの措置をいいます。高年齢者雇用安定法において定められた措置のうち、この定年の引上げを行った場合、変更された就業規則が全員に適用されるとともに、従前の労働条件のまま雇用が継続します。

 

現在雇用している高年齢者のすべてが定年の引上げ対象となるため、この継続雇用の対象から除外する労働者がいるのであれば、解雇と同じ処置を検討することになります。

 

継続雇用制度の導入

 

継続雇用制度とは、65歳未満の定年年齢を定めた企業が、定年後も引き続き雇用し労働者の方々の雇用機会を確保する制度をいいます。継続雇用制度を導入するときにも、希望者全員の雇用継続が求められます。

 

継続雇用制度では、再雇用によって65歳までの雇用を確保することができます。つまり、会社が定める定年年齢で一度退職となり、その方を再度雇用することで雇用を延長する仕組みです。

 

再度雇用する形を取るため、新しい労働条件で契約することができます。再雇用のタイミングで、勤務日数や勤務時間などの労働条件を変えることもできますし、契約社員や嘱託社員など従前とは異なる雇用形態に変更できます。

 

たとえば、「週4日勤務」「1日6時間勤務」などに変更できるため、労使双方にとって柔軟性が高くなります。

 

定年の定めの廃止

 

定年の定めの廃止とは、定年そのものをなくしてしまうことです。会社で定年の定めの廃止の制度を設けるためには、その手続きとして就業規則から定年に関する記載を削除します。

 

定年の引上げと同じように、変更された就業規則が全員に適用され、いま現に雇用している高年齢者のすべてが対象となります。そして、定年の定めの廃止を行うケースでも、従前の労働条件のまま雇用が継続します。

 

雇止めに関する労働契約法

 

労働契約法では、一年更新など期間を定めて雇用するケースで制限を設けています。原則として、有期労働契約を更新しない旨を使用者が通知していれば、その契約期間の満了によって雇用契約関係は終了します。

 

しかし、この原則を貫くと、有期労働者の生活が不安定になってしまうおそれがあります。そこで、労働者保護の観点から、雇用契約期間満了による労働契約の終了について、労働契約法19条により制限が加えられています。

 

次の(ア) 、(イ) のケースでは、客観的合理性および社会的相当性がない限り、更新を拒否することや雇止めは認められません。

 

 

特に、65歳までの雇用継続は企業の義務となっています。たとえ一年契約を繰り返していたとしても、労働者が65歳まで契約が更新されると期待するのは合理性があると考えられます。

 

実務で欠かせない法規制以外のポイント

給与

 

現在、65歳までの雇用を確保するための措置を講じることが事業主の義務とされています。そして、再就職の拒否をしたケースでは、企業側に不利な判例が出ています。

 

再就職の拒否は原則としてできないため、多くの企業では「継続雇用制度」を選択します。その中でも、対象者が定年を迎えた段階でいったん退職扱いとし、その後、労働条件を見直した上で、再度雇用する再雇用制度を適用します。

 

再就職の拒否についての過去の判例

 

日本郵便事件(東京高判平成27年11月5日労経速2266号17頁)では、定年退職を迎えた労働者が継続雇用基準を満たしていると判断される場合にも関わらず、その労働者を再雇用しないことは違法とされました。

 

そして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない限り、定年後も会社の継続雇用制度に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続していると示されました。

 

企業の実際の対応

 

高年齢者雇用安定法により、65歳未満の定年を定めている場合には、「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講じる必要があります。

 

このうち、「定年の引上げ」「定年の定めの廃止」を選択した場合には、従前の労働条件のまま雇用が継続します。そのため、企業で人件費がかさむ、世代交代が進まないなどのデメリットが挙げられています。

 

そこで、多くの企業では「継続雇用制度」を選択し、その中でも対象者が定年を迎えた段階でいったん退職扱いとした後に再度雇用する形とします。そして、再雇用にあたって、契約社員やパートタイマー、嘱託社員などに雇用形態を変更するのです。

 

合理的な裁量の範囲内であれば、勤務条件や職務内容を見直し、それに伴って賃金を減額することも可能で、労使双方にとって受け入れやすいのです。そして、再雇用にあたっては対象の社員を一年契約の有期嘱託社員とし、1年ごとに契約を更新するという形を取ることが多いです。

 

ただし、この場合でも、1年の契約期間が終了したからといって、簡単にその更新を拒否することはできません。雇止めに関する労働契約法の考え方が採用されるためです。

 

賃金水準の考え方

 

名古屋自動車学校事件(名古屋地裁令2・10・28判決)では、定年前後で業務内容に変更がなく自動車学校の教習指導員として定年後再雇用された嘱託職員が、正社員との待遇差は不合理であると訴えました。嘱託職員となったときの基本給が、定年退職時の基本給の60%を下回る水準となっており、不合理にあたると判断されました。

 

特に名古屋自動車学校事件では、定年退職後の再雇用であっても、労働者の生活保障という観点から基本給を保障するのが望ましいこと、そして60%を下回る限度で違法であるとの水準が示されました。定年退職後における再雇用では、考慮すべき事例です。

 

 

最適解を提案します

 

最適解を提案します

定年後の再雇用を拒否したい場合はまず退職勧奨から行う

退職勧奨

 

ここまで解説してきたように、定年退職する方を再雇用し、その労働条件を変更するなどの対応は認められます。しかし、会社が65歳未満の定年後に、希望者の再雇用を拒否することは原則としてできないことになります。

 

定年退職する方が希望するにもかかわらず、その再雇用を拒否しようとするのであれば、定年年齢に達していない労働者の方を解雇する場合と同じように対処する必要があります。つまり「退職勧奨」「解雇の実施」という手続きを取らなければなりません。

 

退職勧奨の流れ

 

退職勧奨とは、会社が労働者に対し「辞めて欲しい」と伝え、退職を勧めることです。あくまでも、「定年年齢で辞めてください」とお願いをするのです。そのため、再雇用を希望するか否かは、労働者側の判断に委ねられることになります。

 

退職勧奨の流れは、退職勧奨の準備に始まります。労働者の方が納得するような内容でなければ、定年年齢を迎える労働者の方は、引き続き再雇用を希望すると考えられます。そのため、退職勧奨の理由の整理、退職一時金の支給や有給休暇の取扱いなどの退職条件を整理しておきましょう。

 

再就職支援などが可能であれば、提案することで合意退職に向けて話が進みやすくなるかもしれません。このような準備をしっかり行ってから、面談を実施します。そして、退職の合意が得られれば退職届や合意書を作成し、合意退職に至ります。

 

退職勧奨を行うときの注意点

 

退職勧奨で注意を要するのが、勧奨での面談のやり方です。過去の判決でも、面談のやり方で不法行為であると認められたものが多く見受けられます。

 

退職勧奨は、使用者が定年退職する労働者に、自発的に退職するよう説得する行為にすぎません。そのため、勧奨される労働者の方が、自由にその意思を決定できる状況であるかが問われるのです。

 

多数回にわたる退職勧奨や長時間の面談は、退職強要にあたると判断されてしまうおそれがあります。退職勧奨での面談回数は、数回程度にとどめておくのが無難です。

 

また、長時間の面談も強要と捉えられるため、1回の時間は30分~1時間程度とするのが適当です。そして、面談を実施するときの会社側の担当者は、2名程度が適当でしょう。

 

しかし、「言った」「言わない」のトラブルとなる懸念があるので、面談の担当者を1名だけにすることは避けましょう。

 

退職に向けた書類を作成

 

退職勧奨の一環として面談を行い、会社が定年退職を迎える労働者に退職して欲しいことを伝えます。その労働者の方が会社側の提案を受け入れることで、退職の合意が得られたと考えられます。

 

そのときには、定年年齢に達するタイミングで退職することを明らかにした退職届を提出してもらいましょう。

 

労働者が自由な意思によって退職に至ったのであれば、退職の意思表示は口頭でも有効です。しかし、退職の意思を文書として残しておくことは、後々争いとなることを避け、証拠の一つとなりますので、労働者の方から書面を提出してもらう方が望ましいです。

 

そして、退職届は社員本人が自分の意志で作成したことを明らかにするため、署名欄は本人に自筆してもらうとより良いでしょう。

 

定年後の再雇用を拒否したいときの解雇の流れ

弁護士

 

定年退職を迎えるにあたって、労働条件を変更することや、退職勧奨をすることはできます。しかし、会社が65歳未満の定年後に希望する労働者の再雇用を拒否することは、原則として違法となります。

 

なんらかの事情があり再雇用を拒否したいとお考えであれば、解雇と同じ流れで対処することが求められます。そのためには、あらかじめ解雇事由を明示しておくこと、そして「再雇用を拒否することはやむを得ない」と客観的に主張できる証拠を集めておく必要があります。

 

あらかじめ解雇事由を明示しておく

 

65歳未満の定年を迎えた後に、再雇用を拒否することが違法とならない例外があります。たとえば、次のような理由があるのであれば、再雇用を拒否することができます。

 

  • 人件費が不足している

  • 業務命令違反や素行不良が多い

  • 能力不足や成績不振

 

ただし、解雇を実施するときと同じように、就業規則等において「こういうケースでは解雇を実施する」「こういうケースでは再雇用を行わない」とその事由をあらかじめ明示しておく必要があります。

 

また「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(労働契約法16条)というルールが再雇用を拒否するときにも適用され、会社側の一方的な都合や不合理な理由による解雇は認められないことに注意が必要です。

 

証拠を集める

 

再雇用を拒否しようとすれば、解雇と同じ流れで対処することが求められます。そして、会社としては定年後に再雇用するのを拒否したいとしても、裁判所が「再雇用を拒否することはやむを得ない」と判断する解雇に値する客観的な証拠を集めなければなりません。

 

これは、対象の労働者が定年退職を迎える直前になり、急に準備できることではありません。かなり前から証拠を集めておく必要があることを意味します。

 

専門家とともに早めに対応する

 

労働者の方の勤務態度が良いものではなかったなどの理由があれば、再雇用を避けたいと考えることは会社として当然です。しかし、会社としては定年後に再雇用するのを拒否したいとしても、裁判所が納得する客観的な証拠を集めなければなりません。

 

そのためには、解雇や雇い止めに関連する法律や過去の判例を網羅し、的確な対処が求められます。このような対応を行うには、専門的な知識と経験が必要だと考えられますので、早めに弁護士等の専門家へ相談することをおすすめします。

 

また、将来起きるかもしれない紛争を防ぐためには、高年齢者雇用安定法が要請する措置のうちどれを選択し、どのような内容とするのかについて、制度設計の段階から考えておくべきです。

 

そして、制度設計は自社の状況だけで判断すべきではありません。現在は「努力義務」とされている70歳までの終業確保措置の法改正の見通しなども踏まえ、ベストな選択をすべきです。

 

法的なリスクを抑え、さまざまなトラブルを想定した制度設計を行いたい企業の経営者の方も、弁護士等への相談を検討すると良いでしょう。

 

最適解を提案します

 

最適解を提案します

 

まとめ

 

2013年4月に高年齢者雇用安定法が改正されたことにより、会社が65歳未満の定年を定めている場合、「定年の引上げ」「継続雇用制度の導入」「定年の定めの廃止」のいずれかの措置を講じる義務が生じます。多くの企業ではこのうち、人材活用がしやすい継続雇用制度を選択しています。

 

継続雇用制度では、定年による退職を前提とした再雇用という形を取るため、新たな労働条件を設定することができるのです。しかし、労働条件の変更ができるにとどまり、会社が65歳未満の定年後に希望者の再雇用を拒否することは原則としてできません。

 

希望者の再雇用を拒否するのであれば、定年年齢に達していない労働者の方を解雇する場合と同じように対処する必要があります。つまり、「雇い止めをすることはやむを得ない」と裁判所が判断を下すような、客観的な証拠を集めなければなりません。

 

これには、関連する法律や過去の判例を網羅し、的確に対処する必要があり、経験豊富な専門家とともに対応するのが望ましいでしょう。

 

本件を始めとした労務トラブルは、企業経営に大きく影響しかねない重要な問題です。もちろん裁判になってからの対応も可能ですが、当事務所としては裁判を起こさない「予防」が最重要だと考えております。

 

労務関連で少しでもトラブルがある企業様、不安のある企業様は、まずは当事務所までご相談下さい。訴訟対応はもちろん、訴訟前の対応や訴訟を起こさないための体制づくりのサポートをいたします。

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…

 

サンカラ

サンカラ