たきざわ法律事務所

「金魚電話ボックス事件」について解説します

この記事を書いた弁護士は…

1. はじめに

奈良県大和郡山市の柳町商店街に設置された、電話ボックスの内側に水を満たし金魚を泳がせたオブジェ「金魚電話ボックス」に関する著作権侵害訴訟(通称「金魚電話ボックス事件」)の控訴審判決が、2021年1月14日に大阪高裁でありました。

裁判長は、「オブジェは原告の著作権を侵害している」として、請求を棄却した1審の奈良地裁判決を変更し、被告らにオブジェの廃棄と賠償を命じる判決をしました。

そこで、本コラムでは、一審とニ審とで対照的な結果となった「金魚電話ボックス事件」について、控訴審ではどのような判断に基づいて著作権侵害を認定したのか、原審である奈良地裁判決と比較しながら説明していきたいと思います。

 

2. 事案の概要

本件は、金魚の産地・奈良県大和郡山市の柳町商店街組合とK氏(以下「被告ら」)が共同で制作し、展示したオブジェ(以下「被告作品」)について、現代美術家の男性(以下「原告」)が、自己のアート作品(以下「原告作品」)に酷似しており、著作権及び著作者人格権を侵害されたとして、被告らに対して①被告作品の制作の差止、②被告作品を構成する水槽及び公衆電話機の廃棄、③不法行為に基づく損害賠償請求及び遅延損害金の連帯支払を求めて訴えを提起した事案です。

出典:松永洋介 ならまち通信社HP(https://narapress.jp/message/)より

3. 主な争点

本件での主な争点は以下の通りです。

  1. 原告作品の著作物性
  2. 被告作品による原告作品の著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無
  3. 被告作品による原告作品の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の有無

4. 裁判所の判断

1) 原告作品の著作物性

まず、争点1の原告作品の著作物性については、原審と控訴審とで構成要素の一つである創作性の認定箇所が異なっています。

 

表1. 創作性に関する原審及び控訴審の判断

 

原審では、“原告作品の基本的な特徴”に着目し、上記表1の❶❷の2点を選出した上で、❶❷の特徴なるものは、アイデア又はそれを実現するための方法の選択肢にほかならないとして、著作物性を否定しました。

しかしながら、一方で、公衆電話ボックス様の造作物の色・形状、内部に設置された公衆電話機の種類・色・配置等の具体的な表現については、創作性を認めることができるから、著作物に当たると判示しました。

 

これに対し、控訴審では、“原告作品のうち本物の電話ボックスと異なる外観部”に着目し、上記表1の①~④を選出した上で、それぞれの創作性の有無を検討しました。

その結果、①〜③についてはいずれも創作性を認めることはできないとしたものの、④については、以下の理由から、創作性を認めるとしました。

  • 人が使用していない公衆電話機の受話器が水中で浮いた状態で固定されていること自体、非日常的な情景を表現しているといえるし、受話器の受話部から気泡が発生することも本来ありえない。
  • 受話器がハンガー部から外れ、水中に浮いた状態で、受話部から気泡が発生していることから、電話を掛け、電話先との間で、通話している状態がイメージされており、鑑賞者に強い印象を与える表現である。

さらに、①と③においては、単体では創作性を認めることはできないとしたものの、④の点を加えることにより、電話ボックス様の水槽に50匹から150匹程度の赤色の金魚を泳がせるという状況のもと、公衆電話受話器が、受話器をかけておくハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生しているという表現において、原告の個性が発揮されているから創作性が認められる旨を判示しました。

 

【ポイント】

控訴審では、原審で単なるアイデアに過ぎないとした「❷金魚の生育環境を維持するために公衆電話機の受話器部分を利用して気泡を出す仕組み」について、「④公衆電話の受話器が受話器をかけておくハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され、その受話部から気泡が発生している点」で創作性があると判断しました。なお、原審で創作性を肯定した「公衆電話ボックス様の造作物の色や公衆電話機の色」については、創作性を否定する判断をしました。

2) 被告作品による原告作品の著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無

つぎに、争点2の被告作品による原告作品の著作権(複製権又は翻案権)侵害の有無については、両者の作品間における(A)同一性又は類似性の有無、及び(B)原告作品への依拠性の有無に基づき判断しました。

なお、原審では、原告作品と被告作品とを比較・検討した結果、両者の作品間に類似性はないので、著作権侵害ではないという結論に至っており、依拠性の有無については検討されていませんでした。

  A.  同一性又は類似性について

まず、原審及び控訴審で認定した原告作品と被告作品の共通点及び相違点は以下の通りです。

 

表2. 原審及び控訴審における原告作品及び被告作品の対比

原審では、両者の作品を比較・検討した結果、原告が同一性を主張する点(I.外観上ほぼ同一形状の公衆電話ボックス様の造作水槽内に金魚を泳がしている点、II.造作水槽内に公衆電話機を設置し、公衆電話機の受話器部分から気泡を発生させる仕組みを採用している点)は、著作権上の保護が及ばないアイデアについての主張であるから、原告の同一性に関する主張は理由がないと判示しました。

また、具体的表現内容については、「造作物内部にニ段の棚板が設置され、その上段に公衆電話機が設置されている点」と「受話器が水平に浮かんでいる点」の2点を共通点として認定したものの、前者は、アイデアに必然的に生じる表現であるため創作性がないと判断し、後者は、原告作品と被告作品の具体的表現としての唯一の共通点で、この点を除いては相違していることを理由に、両者の作品間での同一性を認めることはできないと判断しました。

 

これに対し控訴審では、同様に両者の作品を比較・検討した結果、共通点①及び②(表2右側参照)は、原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重なるのに対し、他の相違点はいずれも、原告作品のうち表現上の創作性のない部分に関係しているとことから、被告作品は、原告作品のうち表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製しているといえる一方で、それ以外の部位や細部の具体的な表現において相違があるものの、被告作品が新たに思想又は感情を創作的に表現した作品であるとはいえないと判示しました。


【ポイント】

控訴審では、原審で創作性を否定した「I.外観上ほぼ同一形状の公衆電話ボックス様の造作水槽内に金魚を泳がしている点」と「II.造作水槽内に公衆電話機を設置し、公衆電話機の受話器部分から気泡を発生させる仕組みを採用している点」の創作性を肯定しました。

さらに、被告作品はそれを全て有形的に再製(=複製)している一方で、新たな創作性を表現した作品(=別の新たな著作物)とはいえないことから、次章の依拠性を認定した上で複製権侵害に該当すると判断しました。

 

  B.  依拠性について

本件の経緯の詳細は下記表の通りです。

 

表3. 本件の詳細な経緯

判決文及び松永洋介 ならまち通信社HP(https://narapress.jp/message/)を参考に作成

 まず、平成24年8月頃に原告は、被告作品の前身となる作品で、大学生らのグループ「金魚部」が制作した「テレ金」http://osaka-canvas.jp/archive/project/osc2011/99/について、アートイベントの主催者であるおおさかカンヴァス事務局に抗議し、それを受けて、金魚部は同年のおおさかカンヴァスへの「テレ金」の出品を辞退しました。よって、その経緯から、遅くとも、この時までには金魚部のメンバーと指導者であるD教授は、原告作品の存在や原告が著作権侵害を主張していることを知っていたと大阪高裁は認定しました。

つぎに、原告は平成25年12月にHANAR ART 2013の実行委員長とK氏(以下「被告K」)に対して、「テレ金」の承継作品である「金魚電話」https://hanarart.jp/2013/artist.htmlが自己の著作権を侵害しているとして抗議した」と主張しました。一方、被告Kは「原告とは話したことはないし、原告作品の存在も知らなかった」と供述をしました。しかしながら、大阪高裁は、下記の事実に基づき、被告Kは遅くとも平成25年12月までに原告作品のことを知り、かつ、これについて美術家である原告が著作権を主張していることも知ったと認定しました。

 

  • 平成23年5月頃には、美術を専攻する学生らの団体である金魚部のメンバー及び指導者であるD教授と知り合い、以後継続して関係を持っていたこと。
  • 被告Kは金魚部が制作した「テレ金」の部材を承継した金魚の会の代表者でもあり、HANARART 2013で「金魚電話」を展示するに当たっても、D教授と話をし、その展示に関してアドバイスまで受けていること。
  • HANARART 2013の実行委員長は、原告からの抗議に対する原告宛ての回答書において、「以前の〇〇様(原告)との間のいきさつもある程度聞き及んではおりましたが」と記載していること(この「いきさつ」は「テレ金」に対する原告の抗議のことを意味すると解されるので、金魚部のメンバーやD教授と親交のある被告Kが聞き及んでいなかったとは考え難い。)。

 

さらに、被告らは、「被告作品は、金魚部が制作した「テレ金」を承継したものであるから、自身では被告作品を制作しておらず、また、金魚部の学生も原告作品の存在及び内容を認識していなかった」と主張しました。しかしながら、大阪高裁は、被告作品の制作者は被告らであると認定した上で、金魚部の学生が制作した「テレ金」についても、下記の理由から原告作品に依拠したものであると推認することができるとしました。

  • 原作作品の制作以前に公衆電話ボックスを水槽に見立てた作品が存在していたとの証拠がないこと。
  • 表2の共通点①に加え、創作性の根拠となった共通点②を備えたものが独立して制作されることは経験則上ないと考えられること。
  • 「テレ金」制作に関わった人物たちが美術を専攻する者であったことから、原告作品を紹介する媒体やこれに関する情報に接する機会が多いといえること。
  • 被告作品と原告作品との相違点は、たまたま、金魚部が、使用されなくなった電話ボックスを入手し、これを使用して「テレ金」を制作し、これが被告作品に受け継がれたという経緯に基づくものであり、新たな創作を加えたというような状況はないこと。
  • テレ金と原告作品との相違点(気泡発生装置を別途備える点)は、金魚の数が多かったため、気泡発生装置を別途備える必要があったからであること。

したがって、上記の事情を総合すると、被告作品が「テレ金」を承継するものであることを理由として依拠を否定することはできず、被告らは被告作品を制作するに当たり原告作品に依拠したと認めることができると認定しました。

【ポイント】

控訴審では、原審で検討しなかった依拠性について、原告が被告作品の前身である「テレ金」に抗議した経緯等から、被告らは原告作品に依拠して被告作品を制作したと認定しました。

  C.  まとめ

以上のことから、被告らは、被告作品を制作したことにより、原告の著作権(複製権)を侵害したと認められると判示しました。

 

3) 被告作品による原告作品の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害の有無 

控訴審では、著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害についても認定判断しました。

  A.  氏名表示権について

被告らは、原告の氏名を表示することなく、原告作品の複製物である被告作品を喫茶店に展示したことから、原告の氏名表示権を侵害したと認められると判示しました。

  B.  同一性保持権について

原告作品の複製物である被告作品は、その制作に当たり公衆電話機及び電話ボックスの屋根の色を変更する等、原告の意に反する改変をしたと認められることから、被告らは、被告作品を制作することにより原告の同一性保持権を侵害したと認められると判示しました。

 

5. さいごに

著作権侵害に該当するためには、「類似性(同一性)」と「依拠性」が必要とされています。このうち「類似性(同一性)」は、あくまで創作性のある表現が一致している必要があり、アイデアの一致では「類似性(同一性)」は否定されます。ただ、どこまでがアイデアでどこまでが表現なのか、という判断は非常に難しいものがあります。

本件では、控訴審と原審で創作性を認めた部分が異なるため、結論も変わることになりました。

本件が最高裁に上告されるのかどうかは本コラム執筆時点の報道内容からは把握できませんが、仮に最高裁に上告された場合には、表現とアイデアの区別(境目)についてより明確に判断されることを期待したいところです。