たきざわ法律事務所

パワハラで社員が退職した場合は“会社都合”が原則!パワハラの定義と賠償責任の可能性について

この記事を書いた弁護士は…

 

 

自分自身はパワハラを行っている意識がなくても、パワハラを受けている労働者から見れば、精神的苦痛を味わっている可能性は高いです。

 

加害者側と被害者側で認識が異なることによっても、発生する可能性があるパワハラ。

 

パワハラは原則として、会社都合での退職となってしまうため、企業のイメージダウンも避けられないことでしょう。また、今のご時世でパワハラを行ってしまえば、SNSを通して非常に多くの人に拡散されてしまう可能性もあります。

 

情報が拡散されてしまえば、新しい社員の確保すらも危うい状況となってしまうことでしょう。今回はそうならないためにも、パワハラ社員の都合退職についてやパワハラの定義などについて詳しくお伝えします。

 

本稿では、下記の3つのポイントで企業様向けにパワハラについて記載します。

 

パワハラが原因で社員が退職する場合

自社で発生した、パワハラが原因で退職する労働者の退職都合は、原則として「会社都合退職」となります。

 

本来、社員の申し出によって退職するのであれば、「自己都合退職」という扱いになるはずです。ところが、「労働者の責任によらない退職」であれば、会社都合と判断されてしまいます。

 

パワハラが原因で社員が退職する場合には、労働者の責任ではなく会社側の責任によって「退職を強いられたもの」として認められます。そのため、一般的には会社都合退職という扱いになるのです。

 

では、自己都合退職と会社都合退職では、どのような違いがあるのかについて詳しく見ていきましょう。

自己都合退職

自己都合退職とは、労働者の責任・労働者の判断のもとで行われる退職です。

 

あくまでも、労働者側の判断で行われる退職であるため、会社側が大きなデメリットを被ることはありません。

 

一方で、労働者は失業保険給付までの待期期間が長いなど、さまざまなデメリットを被ることとなります。そのため、よほどの理由がない限りは、労働者は会社都合退職で退職できるよう相談をしてくるはずです。

 

ただ、パワハラで退職を検討している労働者が現時点で、転職先を決定している場合や、会社側と揉めたくない場合は、自己都合退職を選択することが多いです。

 

パワハラで退職をされる場合には、会社側に非があるケースも多いのですが、会社としては自己都合退職のほうがありがたいでしょう。よく労働者と話し合って、退職都合を決定してみてください。

会社都合退職

会社都合退職とは、「退職を余儀なくされるケース」です。

 

例えば、会社が倒産してしまった場合や、大規模なリストラ等が該当します。

 

また、いじめやパワハラなどのハラスメントによって、労働者が退職をする場合も会社都合退職という扱いになります。

 

会社都合退職になると、会社のイメージダウンは避けられません。また、キャリアアップ助成金やトライアル助成金などの助成金が支給されている場合は、一定期間、減額もしくは支給停止となるので注意が必要です。

 

なお退職する労働者は、会社都合で退職することで、失業保険給付を貰えるまでの期間が大幅に短縮(3か月)されるため、経済的不安を大きく解消できます。その上、会社都合で退職をすれば「特定受給資格者」に該当するため、支給金額にも差が出ます。

 

パワハラを受けている労働者は、1日でも早く退職したいはずです。ただ、経済的不安を抱えている方であれば、そう簡単に退職はできません。そのため、失業給付金の支給までの期間や支給金額で優遇を受けられる「会社都合退職」での退職を希望するはずです。

 

会社としては、パワハラが原因で退職する社員に対して、会社都合での退職を認めるべきでしょう。もしも、会社都合での退職を認めなければ、訴えを提起される可能性もありますので注意してください。

 

パワハラによって労働者が退職を検討しているのであれば、会社側の立場が非常に弱い点について、しっかりと覚えておいてください。

パワハラの定義3つの要素

1997年にはじめて“セクシャルハラスメント”に関する規定が制定されて以降、〇〇ハラスメントという言葉が多く使われるようになりました。ハラスメントの定義をざっくり言えば、「人の嫌がること」であることは言うまでもありません。

 

自分が良い(大丈夫)と思っていても、相手が不快な思いをしていれば、それは立派な〇〇ハラスメントかもしれません。そんなハラスメントの中にある一種がパワーハラスメント、通称パワハラです。

 

パワハラとは、職務上の優越的な地位を利用して、精神的・身体的苦痛を与えるハラスメントです。厚生労働省では、パワーハラスメントの定義として、下記の3つの項目を定めています。

いずれの条件も満たした場合に、パワハラと認定します。

 

起こりうる事由として、

  • 指導に熱くなってしまった結果、手が出てしまった
  • 大勢の前で叱咤する

などが、発生しやすいパワハラ事例の一例です。

 

いずれも上記3条件を満たしているため、パワハラ認定を受ける可能性が高い事例と言えるでしょう。では、3条件の具体的な内容についてもう少し詳しく解説いたしますので見ていきましょう。

優越的な関係に基づいて

優越的な関係とは、パワハラを受ける労働者とパワハラを行う労働者との間に、抵抗または拒絶できない関係が築かれていること、が前提です。

 

わかりやすい例で言えば、上司と部下、先輩と後輩です。つまり、同僚同士や部下から上司という関係性では、「優越的な関係」が成立しない可能性が高いでしょう。

 

ただし、集団の行為などで客観的に見ても「抵抗または拒絶ができない。」と判断された場合には、同僚同士や部下から上司に対する行為であっても、パワハラと認定される可能性があります。

 

また当然に、優越的な立場を利用した暴力等は論外です。体育会系の企業においては未だに暴力的な指導が蔓延しています。これは、パワハラのみではなく刑法の定める傷害罪や暴行罪の成立要件を満たす可能性があります。

 

自社の社員が行った暴力行為であっても、指導の範囲を著しく超えた場合には、企業側も多大な影響を受けることとなります。

“優越的な関係に基づいた指導以外の行為”が、パワハラになる可能性が高いので注意してください。

 

業務の適正な範囲を超えて

一般的に見たときに、業務の適正を超えているかどうか、も、パワハラ認定に大きな影響を与えます。

 

例えば、入社間もない社員に対して、指導をすることなく他の社員同等の仕事を求めたり、結果を求めたりすることは、パワハラと認定される可能性が高いです。ただし、前職で同様の業務に従事していて、即戦力として採用した場合にはこの限りではありません。

 

あくまでも“適切な範囲を超えて”がポイントです。各々の能力を把握した上で、適正な人員配置や業務を任せなければいけません。

 

また、行う必要のない無意味な業務を行わせることも、適正な範囲を超えていると判断されますので注意してください。

 

極端な例ですが、「囚人の穴掘り」が良い例です。昔にヨーロッパで行われた刑罰のひとつで、目的のない(意味のない)穴を掘っては埋める、掘っては埋めるを繰り返す罰です。

 

「ただ穴を掘るだけ」ということなので、なんとも簡単な刑罰なんだ。と思われがちですが、“無駄なこと”を繰り返しやらされた囚人の多くは、精神状態に異常をきたしたそうです。

 

人間は、自分の行為によって“存在意義”を強く感じます。それにも関わらず、無意味なことを繰り返しやらされることで、徐々に精神が崩壊していきます。上記の「囚人の穴掘り」は極端な例ですが、無意味な業務を行わせるという部分では同じです。

 

次に解説する「精神もしくは身体的な苦痛」にも大きな影響を与えるため、「適正な範囲」には要注意してください。

 

精神的もしくは身体的な苦痛を与え

暴力などの身体的な苦痛を与えることは当然にパワハラですが、精神的苦痛もパワハラに該当しますので注意してください。

 

精神的な苦痛の具体例としては、大勢の前で行う叱咤や無視、能力に見合わない仕事を与えるなどの行為。根本的なことを言えば、「自分がされて嫌なことはしない。」という小学生でもわかる行為です。

 

大勢の前で叱咤されて良い気分になる方はいないですし、無視をされて気分を害さない方もいません。叱咤するのであれば、環境を考えて言葉を考えて、相手を思いやりながら行うべきです。

 

また、無視などという姑息な行為自体、絶対にやめていただきたいです。行われた方も、それを見ている周囲の方も不快な気持ちになることでしょう。得をする方がいない行為や、自分がされて嫌な行為は、パワハラ認定されると思っておきましょう。

パワハラ退職で損害賠償の可能性

パワハラによって労働者が退職した場合には、労働者から損害賠償請求されてしまう可能性があります。

 

そもそも損害賠償とは、「違法な行為によって被害を受けた被害者に対して、加害者が賠償を行うもの。」です。

 

ここでいう違法な行為をした者とは、パワハラを行った当事者となりますが、パワハラの加害者としては当事者のみならず企業側まで範囲が広がります。そのため、パワハラを受けた労働者は、支払い能力がある企業側に対して損害賠償請求を行うケースがほとんどです。

 

パワハラを理由に退職する労働者は、退職の準備としてパワハラの準備をしている可能性が高いです。そのため、完璧な証拠のもとで会社側が損害賠償を請求されてしまうため、ほとんど勝ち目はないです。

 

損害賠償請求の相場は、パワハラの事案によっても異なりますが50万円~100万円程度が相場です。金額のみの問題ではなく、裁判まで発展してしまえば会社としての印象も大幅にダウンしてしまいます。

労働局長から助言・指導の可能性

パワハラによって自社の労働者が退職した場合には、損害賠償請求のみならず労働局長から助言・指導を受ける可能性があります。労働局とは、厚生労働省の管轄下にある組織であり、労働基準監督署の上部組織です。

 

これは、パワハラを受けた労働者が管轄する労働局へ「労働局長による助言・指導制度」の申し込みを行うことで、手続きが開始されます。実際には、上記申し込みされたからといって、必ず助言・指導が行われるわけではありません。

 

「労働局長による助言・指導制度」の申し込み後にトラブルなどの具体的な内容をヒアリングし、“違法性”を判断します。このとき、パワハラを受けた労働者が第三者から見ても明らかなパワハラの証拠を持っていれば、“違法性”は明らかです。

 

そのため、当然に会社側は労働局長から助言・指導を受けることとなります。もしも労働局長から助言や指導を受けてしまえば、「会社の違法性」を行政が認めたという、まったくいらない御札が付いてしまいます。

 

会社のイメージダウンが避けられない上に、他の労働者のや新入社員の印象も含め、大きな範囲で影響を与えることでしょう。パワハラが事実であれば、労働局長からの助言や指導は避けられませんので、パワハラには十分注意してください。

 

まとめ

今回は、パワハラによって労働者が退職する場合の注意点や、退職都合理由についてお伝えしました。

今回は、パワハラについてのみお伝えしてきましたが、〇〇ハラスメントと言えば、とても多くの種類があります。どのようなハラスメントも、根源には「人の嫌がることをしない」といった、小学生レベルの思いやりがあります。

 

また、中にはパワハラを行う意思がなくても、指導の延長線上で少し熱くなってしまったり、イライラしてしまったりすることもあるでしょう。感情すべてを無くす必要はありませんが、威圧的な態度は周囲の人も含め、不快な思いとなってしまいます。

 

何度指導しても成長しない労働者に対しては、苛立ちを覚えることもあるかもしれません。しかし、一度会社で雇用した以上は、最後まで責任を持って指導し育て上げるべきでしょう。

 

姑息な手段を用いて、退職へ導くような行為は絶対にやめてください。企業としても、パワハラのみならず、さまざまなハラスメントに対する指導徹底を求められることでしょう。

 

 

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