たきざわ法律事務所

社内利用も危険!新聞の切り抜きの社内共有に潜む訴訟リスクを解説します

1.はじめに

新聞記事の切り抜き画像を無断で社内イントラネットに掲載されたとして、新聞社が鉄道会社に損害賠償等の支払いを求めた訴訟(以下、「本件」)で、東京地裁は、「著作物である新聞記事の切り抜き画像を社内イントラネットに掲載する行為は、新聞社の有する著作権を侵害する」として、鉄道会社に192万3000円の賠償を命じる判決を言い渡しました。本件は地裁判決ですが、損害賠償額も含め企業内での著作物の利用に関する大変興味深い判決ですので、本コラムで紹介していきたいと思います。

 

【判決文】

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/457/091457_hanrei.pdf

2.事案の概要

● 原告

新聞の発行等を目的とする株式会社

● 被告

鉄道事業法に基づく第一種鉄道事業等を目的とする株式会社

 

本件は、平成17年9月頃から平成31年4月16日までの間、被告が原告の許諾を受けることなく、原告が発行する新聞に掲載された記事のうちの一部の記事(以下、「本件原告記事」)を切り抜く等した上で、スキャンして画像データを作成し、それを社内イントラネット(以下、「本件イントラネット」)用の記録媒体に保存し、被告従業員が本件イントラネットに接続して画像データを閲覧できるようにした行為が、原告の複製権及び公衆送信権を侵害するとして、原告が被告に対し損害賠償等の支払いを求めた事案です。

3.主な争点

1)本件イントラネット掲載記事と本件原告記事について

 ①本件原告記事はいずれも著作物性が認められるか?

著作物性の有無は、以下の4要件を満たすか否かにより判断されます。

  1. 思想又は感情を含むこと
  2. 創作的であること
  • 表現したものであること
  1. 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものであること

 

詳細については下記コラムを参照下さい。

https://takizawalaw.com/column/intellectual-property/959/

 ② 被告の行為は原告の複製権及び公衆送信権の侵害にあたるか?

●  複製権侵害

複製権は、第三者が無断で著作物を複製(有形的に再製)した場合に行使することのできる権利です。

複製権侵害が成立するには、著作権者の作品に依拠して被疑侵害品が作成されていること(依拠性)と、著作権者の作品と被疑侵害品とが同一又は類似であること(同一性・類似性)が要件となります。

詳細については下記コラムを参照下さい。

https://takizawalaw.com/column/intellectual-property/1511/

●  公衆送信権侵害

公衆送信権は、第三者が無断で著作物を公衆に送信した場合に行使することのできる権利です。

詳細については下記コラムを参照下さい。

https://takizawalaw.com/column/intellectual-property/1662/#11231

2)損害額の算定について

損害賠償を請求するには、多くの事実について立証しなければならないところ、その立証活動は困難な場合が多いです。このため、著作権法では損害額についての算定規定を設けています(著作権法114条)。

 ① 損害額の算定規定その1(著作権法114条1項)

著作権侵害により、著作権者等が自己の受けた損害の賠償を請求する場合において、侵害者が侵害品を譲渡したときは、その侵害品の譲渡数量に、著作権者等の作品の単位数量あたりの利益額を乗じた額を、著作権者等の販売等を行う能力に応じた額の限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができます。ただし、譲渡数量の全部または一部を著作権者等が販売することができない事情があるときは、その事情に相当する数量に応じた額を控除するとされています。

 

「損害額」=「侵害者の譲渡等数量」×「著作権者等の数量単位あたりの利益」

※著作権者等の販売等を行う能力に応じた額を超えない限度とする

※著作権者等が販売等を行えない事情がある場合にはそれに応じた金額を控除する

 

 ② 損害額の算定規定その2(著作権法114条2項)

侵害者が著作権等の侵害行為により利益を受けている場合は、著作権者等が立証すればその利益の額が損害額と推定されます。ここで、侵害行為により得た「利益」とは、必ずしも侵害者の得た利益の全額ではなく、あくまでも権利侵害行為によって得た部分を示します。例えば、海賊版DVDの一部に著作権者の著作物が利用されている場合、そのDVD全体における寄与分がここでいう「利益」になります。

 

「損害額」=「侵害者が得た利益」

 

 ③ 損害額の算定規定その3(著作権法114条3項)

上記の推定が覆滅された場合、あるいは侵害者がそもそも利益を得ていない場合であっても、著作権者等は自己の受けた損害額としてライセンス料相当額を請求することができます。ライセンス料は本来支払われるべき金銭であるからです。その意味で、ライセンス料相当額は、最低限の損害賠償額として保証されているため(著作権法114条5項前段参照)、侵害者が実際の損害額がこれより小額であることを主張して損害賠償額を減額させることはできません。

 

「損害額」=「ライセンス料相当額」

例:「侵害者の譲渡数量」×「著作権者等の単位あたりのライセンス料」

「侵害者の売上」×「著作権者等のライセンス料」

 

なお、著作権者等がライセンス料相当額以上の賠償を請求した場合において、侵害行為が軽過失によってされたものであるときは、裁判所は、その事実を損害の賠償額を定めるのに参酌することができます(著作権法114条5項後段)。ただし、ライセンス料相当額以下に減額させることはできません。

4.裁判所の判断

1)本件イントラネット掲載記事と本件原告記事

 ① 本件原告記事はいずれも著作物性が認められるか?

被告は、本件原告記事のうち平成30年度掲載記事の一部の記事については「事実の伝達にすぎず、著作物とはいえない」等として著作物性の有無を争っていました。しかし、裁判所は、平成30年度掲載記事はいずれも表現上の工夫が見られることから著作物性が認められると判断しました。

 

【判決文】

 平成30年度掲載記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、平成30年度掲載記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。

 

 ② 被告の行為は原告の複製権及び公衆送信権の侵害にあたるか?

裁判所は、本件原告記事は職務著作(著作権法15条1項)に該当するから、本件原告記事の著作権は原告が有するとした上で、被告が本件原告記事を切り抜く等して画像を作成し、それを本件イントラネットに掲載した行為は、原告の複製権及び公衆送信権の侵害にあたると判断しました。

 

【判決文】

 平成30年度掲載記事133本はいずれも著作物であると認められるところ、証拠(甲9、10、23、24、乙19)及び弁論の全趣旨によれば、これらの記事は原告の発意に基づいて原告の従業員が職務上作成し、原告名義で公表されたことが認められ、原告が著作権者であると認められる(著作権法15条1項)。

そして、被告がこれらの記事を切り抜くなどした上で、その画像データを被告がこれらの記事を切り抜くなどした上で、その画像データを作成し、本件イントラネットによる送信用の記録媒体に記録して本件イントラネットに掲載したことは、本件イントラネットが接続されてこれを閲覧できた者等に照らせば、これらの記事に対して有する原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認められる。

 

2)損害額の算定について

本件は、著作権法114条3項の規定に基づき損害額の算定を行いました。

「損害額」=「ライセンス料相当額」=「原告が著作権の行使につき受けるべき単位数量あたりの金銭の額」× 「本件イントラネットへの掲載数」

 

裁判所は、原告が著作権の行使につき受けるべき単位数量あたりの金銭の額は3000円が相当であるとした上で、平成30年度以前の原告が著作権を有する記事は458本、平成30年度掲載記事については133本が掲載されたと認められることから、損害額はそれぞれ137万4000円及び、39万9000円になると算定しました。さらに、これらに弁護士費用相当損害金15万円を加え、賠償額は合計192万3000円になると算定しました(損害金の算定根拠については算定表参照)。

これに対し、被告は、原告の著作物使用料規定(以下、「本件個別規定」)の備考欄には「非営利目的での使用は、場合に応じて割引、または無料とすることができる。」との記載があることから、被告による使用も「非営利で公共性のある使用」にあたる旨主張していました。しかし、裁判所は、被告にこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記の取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はないとして被告の主張を退けました。

 

【判決文】

 原告は、本件個別規定に基づく損害額を主張するところ、上記によれば、原告においては、少なくも平成20年以降は、本件個別規定を適用して原告が発行する新聞の記事について利用許諾を検討する体制を整えており、これらの規定を複数年にわたり、少なくとも1000件程度適用し、これに基づく使用料を徴収してきた実績があることが認められる。また、本件個別規定には、社内 LAN(イントラネット)での利用を想定した文言がある。他方、本件で問題になっているイントラネットでの掲載に関して本件個別規定に基づき支払われた利用料の額等の実績については不明であり、また、本件個別規定には件数が多い場合の割引に関する規定もあり、件数が相当に多い場合、どの程度本件個別規定の本文で定める額が現実に適用されていたかが必ずしも明らかではない。さらに、本件イントラネットによる新聞記事の掲載は、被告の業務に関連する最新の時事情報を従業員等に周知することを目的とするものであったことからすると、掲載から短期間で当該記事にアクセスする者は事実上いなくなると認められる。これらの事実に加え、本件に係る被告による侵害態様等を総合的に考慮すると、本件については、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額 (著作権法114条3項)は、掲載された原告の記事1本について掲載期間にかかわらず3000円として、原告に同額の損害が生じたものと認めるのが相当である。

 

 平成30年度以前については、遅くとも平成30年3月31日までに、原告が著作権を有する記事が458本掲載されたと認めるのが相当であるから、これによる損害は137万4000円となる。平成30年度掲載記事について、別紙損害金計算表の「掲載月」欄記載の月に対応する「記事数」欄記載の数の記事について侵害が成立すると認められる(なお、原告は、記事 177、185、215について被告で2本分の記事が掲載されたことを理由に2本分の損害を計上しているが、単一の記事に係る単一のイントラネットへの掲載であることなどからすると、いずれも1本分の損害を計上するのが相当である。)から、損害額は「損害額」欄記載のとおりとなり、その合計額は、39万9000円になる。

以上を前提にすると、弁護士費用相当損害金は、15万円を下らない。

 

 

5.おわりに

本件では、新聞記事を社内イントラに共有して社員が閲覧できるようにした行為が著作権侵害と判断され、200万円近い損害賠償額が認められました。よく「社内のクローズドな範囲での共有なので著作権侵害にはならないのでは?」と誤解される方がいるのですが、本コラムで紹介したように第三者の著作物を無断でコピーして社内イントラで公開する行為は、原則として著作権侵害に該当します。(本件と類似の裁判例として東京地判平成20年2月26日「社保庁LAN事件」があります。)

企業内でよく問題になる行為ではありますので、新聞記事等の第三者の著作物を社内で共有する場合には、著作物利用に関する社内ルールを作り、周知徹底を行うのが望ましいでしょう。この時、一律に禁止するのではなく、共有できる方法(著作権者から許諾を得る、権利制限規定の要件を充たすような利用をする等)とその基準をある程度明確にしておくことが望ましいかと思います。

たきざわ法律事務所では、著作権法を含む知財を専門の一つとしています。著作権に関するご相談がある場合には、ぜひたきざわ法律事務所までご相談ください。