たきざわ法律事務所

会社都合での退職とは?企業側が気を付けるべきポイントを徹底解説

この記事を書いた弁護士は…

 

 

退職には、「自己都合での退職」と「会社都合での退職」があることをご存知でしょうか。

 

退職者が「自己の都合」で退職した場合、企業にとって「労働力が減ること」以外には特に問題はありませんが、「会社の都合」で退職するとなると、実は様々なデメリットが生じます。

 

 

本稿では、まずは自己都合及び会社都合での退職の違いについて説明し、その上で労働者の立場に立ってそれぞれのメリットデメリットを解説、そして最後にそれらを踏まえた上で「企業が気を付けなければならない点」について解説します。

 

自己都合、また会社都合での退職の「違い」は何か?

退職には、「自己都合での退職」と「会社都合での退職」があると説明しました。

 

今まで「退職」を経験したことがない方でも、ある程度のイメージはつくかもしれませんが、それぞれの違いは具体的にどんなものなのでしょうか。順番に解説していきます。

 

自己都合での退職とは

まず「自己都合での退職」の例について見てみましょう。

転職

1番多いのが「転職」でしょう。従業員が「キャリアアップ・チェンジしたい」と言う理由から転職を選択することはよくあることです。これは「会社はその人に対して、辞めて欲しいと思っていた訳ではない」という状況が多く、転職を選んだのは退職者自身になるため、自己都合での退職となります。

結婚や出産

「結婚」や「出産」による退職も、自己都合での退職となります。結婚や出産を機に、職場環境を変えたり、仕事自体をしばらく休んだりする方は多く、これを機に退職した場合も、会社が理由ではないので、自己都合での退職となります。

転居

特に会社から転勤を指示された訳でもなく、例えばある年齢を機に「実家に戻って働こう」であったり、「結婚を機に違う地域に引っ越そう」などといった理由での「転居」に伴う退職についても、自己都合での退職となります。

病気療養

本人が望んだ訳ではなくても、「病気療養」などによって、会社で働き続けることが難しく、退職するしかないとなった場合も、扱いとしては自己都合での退職となるでしょう。

 

以上が、「自己都合での退職」の例です。

 

上記のように理由に関わらず「会社からではなく、退職者自身で退職の意思を告げる」ものについては、自己都合での退職となります。

 

尚、上記はあくまでも一例であり、これ以外にも自己都合での退職と判断される事例は存在するでしょう。

 

会社都合での退職とは

次に「会社都合」での退職の例について見てみましょう。

解雇

当たり前ですが、会社から「解雇」を告げた場合、それは会社都合での退職となります。日本では労働者の権利を守る法制度も多いためあまり見られませんが、本人には働く意思があっても会社の判断で退職を余儀なくする場合は、会社都合の退職として扱われます。

倒産

頻繁に起こることではないでしょうが、これも会社都合の退職に当たります。解雇と同じく、労働者自身は働く気があっても、会社が倒産してしまっては働くことができません。

退職勧奨

解雇と似ていますが、会社から「退職推奨」を出した場合も、会社都合と判断されます。例えば、定年退職が近い社員などに向けて、自主退職を促したりすることです。ただ「辞めてください」とだけ伝えるのではなく、退職金や、再就職先の斡旋など、フォローをしたうえで、自主退職するように促します。

 

このように会社都合の退職の例では「誰が退職を申し出たか」が重要になります。会社側からの働きかけによって、退職になった場合は、会社都合と判断されるでしょう。

 

「会社都合」での退職の方が失業給付金の制度が手厚い?

自己都合、会社都合、での退職の違いを見た上で、次に労働者の立場に立ってそれぞれのメリット・デメリットを考えましょう。

 

自己都合による退職と会社都合による退職は、一概に「どちらが良くて、どちらが悪い」と言えるものではありません。

 

また労働者と雇用主(会社)、どちらの立場に立つかによってその見方も大きく変わります。

 

失業保険とは

実はこの話しを理解する上では、まずは「失業保険」について基礎的な説明をする必要があります。

 

基本的に会社を辞めた場合は、次の会社を探すための転職活動を行うことになりますが、その際、会社からの給与がなければ、生活をすることはできません。

 

そんな時に雇用保険制度に基づいて支給される手当てを「失業保険金」と言います。会社を退職した後でも在職中の給与を水準として、約50~80%の手当てを受けられるため、退職者にとってはとても重要な制度となります。

 

失業保険に関する細かな説明は割愛しますが、この失業保険の手当てについて、自己都合での退職か、会社都合での退職かが、大きく関わってくるのです。

 

会社都合の方が、失業保険の受給スピードが速い

退職者が「会社都合」で退職することのメリットと言い切っても良いでしょうが、自己都合で退職した時に比べて、会社都合で退職した方が、失業保険の給付スピードが速いのです。

 

給付金がもらえるまでの日数
自己都合退職 3ヶ月
会社都合退職 7日間

 

上記の通り、自己都合による退職の場合は、失業保険の給付までに3ヶ月程の時間がかかる一方で、会社都合の場合は、なんとたったの7日間で給付されます。

※期間は目安であり、あくまでも一例となります

 

会社都合の方が、失業保険の給付期間が長く、金額も多くなる

給付までのスピードが速いだけではありません。

 

給付の期間が長くなります、ということはイコールもらえる給付金の総額も高くなります。

 

1年未満 1年~5年未満 5~10年未満 10~20年未満 20年以上
30歳未満 90日 90日 120日 180日
30~34歳 90日 120日 180日 210日 240日
35~44歳 90日 150日 180日 240日 270日
45~59歳 90日 180日 240日 270日 330日
60~65歳未満 90日 150日 180日 210日 240日

 

自己都合によって退職した場合の給付日数は一律で90日間(1年以上被保険者である事が必須)とされているのに対し、会社都合によって退職した場合は、上記の通り、年齢と勤務年数に応じて、90日よりも長い期間、失業保険の給付を受けることが可能です。

ケーススタディ

15年勤めた会社を、50歳で退職した方を例にとって、計算をしてみましょう。

ここでは仮に1日の給付金額が1万円だったとして計算します。

 

自己都合の退職

  • 10,000円×90日=90万円

会社都合の退職

  • 10,000円×270日=270万円

このように給付を受けられる期間が伸びることで、自己都合の時に比べて3倍もの失業保険金を受け取ることが可能になります。

 

繰り返しになりますが、会社都合の場合は「本人には退職の意思はなかったのに退職せざるを得ない状況になってしまった」ということですから、そのサポートをは自己都合と比べて厚くなります。

 

 

転職活動の時に「会社都合」に関する理由説明が求められる

ここまでの説明を読むと労働者視点に立つと「辞めるときは会社都合の方が良い」と思われる方が多いかもしれません。考え方として間違ってはいないかもしれませんが、、もちろん「会社都合」で退職することのデメリットも存在します。

 

最初に説明した「会社都合での退職の例」での「解雇」の場合を想定しましょう。通常、企業は転職市場においては「優秀な(=会社の成長に寄与してくれる)人材」を採用したいと考えます。その時に、前職の退職理由を面接で聞いた場合に「解雇されました」と聞くと、面接官としては「なぜ解雇されたのか」が必ず論点として深掘りしたくなりますし、その返答次第ではネガティブな評価を受けることもあるでしょう。

 

失業保険金の給付スピードや、金額だけを考えれば退職者にとっては「会社都合の方がいい」と感じる部分もあるかもしれませんが、次の職場を探す際の転職活動において苦労の種となるともあるので注意が必要でしょう。

 

会社都合での退職について、企業側が気をつけるべきこと

退職者にとって、一概に「自己都合が良い」「会社都合が良い」とは言えないが、失業保険などの制度面において「会社都合である方が退職者にとって都合が良い」という場面がある、というのは上記の説明でお分かり頂けたと思います。

 

「自分の会社にはそんな人間は!」と思う経営者が多いかもしれませんが、退職者の中には失業保険などのメリットを考えた上で、「会社都合で退職したい」と色んな理由を主張してくる退職者もいるかもしれません。

 

では、企業にとって「自己都合」で退職してもらうのと、「会社都合」で退職されることにはどのような違いがあるのでしょうか。また、「会社都合での退職において気を付けるべき点」としてどのような事が挙げられるのでしょうか?順番に解説していきます。

 

助成金が受けられなくなる可能性がある

企業と会社都合での退職を考えた時に、最も大きいデメリットかつ気を付けなければならない点は、これかもしれません。

 

雇用・人材育成・環境整備など様々な分野において、企業の成長を加速させる、または支援するための様々な助成金制度が存在します。それぞれの制度において細かな公募条件が決められていますが、うまくいけば国からの支援を受けて、会社や事業を成長させることが可能です。

 

そんな助成金ですが、多くの制度において

6ヵ月以内の会社都合での退職者が0人

という条件があるようです。

 

つまり、「会社都合での退職者が多い企業を国は助けませんよ」ということで、その他の条件などに当てはまっていたとしても「会社都合での退職者が多い」ということを理由に助成金が受けられなくなるのです。

 

もちろん、現状では助成金を利用していない企業もあるかとは思いますが、助成金は毎年予算も変わり、その都度様々な制度や支援策が出されるため、もし「この制度は使ってみたい!」と思った時に、会社都合での退職者が多いことを理由に受けられない、というのは避けたいところです。

 

「解雇」をした結果、賠償金を請求されるリスクもある

日本においては、雇用は生活安定の基盤ということから労働者側の権利が法律で手厚く保護されています。その点、会社都合での退職の中でも、特に「解雇」による退職は注意が必要です。

 

もちろん「どんな状況でも解雇したら訴えられる」という訳では全くありません。ただ「解雇」に至る前に、様々な法令を遵守しながら「慎重に行う」というのが鉄則です。

 

退職者から「不当な解雇を受けた」として訴えでも起こされたら、裁判などの費用がかかるだけでなく、企業としての評判にまで影響する可能性があります。そうなる前に、解雇を考える場合はまずは企業法務や労務に強い弁護士に相談するのが良いでしょう。

 

当所でも、法の専門家として企業側のリスクを考えたアドバイスができるほか、退職者ともできるだけ円滑に話しを終えられるような策を考案致します。

 

解雇予告手当金のが発生する可能性がある

もし「解雇」したい従業員がいた場合、企業側は「明日からもう来なくていい」といったような急な解雇宣告をしてはいけません。解雇をするにはまず「解雇予告」をする必要があるのです。

 

これは労働基準法で、

企業(使用者)が労働者を解雇するには、正当な理由があっても、少なくとも30日以上前から解雇予告をしなければならない

と定められているからです。

 

もし企業が、この解雇予告をせず、30日以内に解雇した場合「30日に満たない日数分の解雇予告手当」を支払う義務が生じます。

 

つまり、

 

  • 今日退職して欲しいと伝えた場合:30日分の給与額を支払う
  • 10日後に退職して欲しいと伝えた場合:20日分の給与額を支払う

 

といった形になります。

 

以上のように、退職者にとっては失業保険などの点でメリットがある「会社都合での退職」ですが、企業側にとっては様々なデメリットが生じるため、その判断は慎重に行う必要があります。

 

自己都合での退職が会社都合での退職になる事がある

最後に企業側が気を付けるべき点として、「自己都合」で退職したにも関わらず「会社都合」での退職となるケースがあるという事です。

 

例えば、長時間労働やパワハラ、セクハラと入った、明らかに労働者側が「会社を辞めざるを得ない状況」に陥っていた場合などは、例え「退職を申し出たのが労働者自身」であっても、原因等を調査した上で、会社都合での退職となる可能性が生じます。

 

もちろん多くの会社はこのような事例には該当しないとは思いますが、ケースとしては起こり得ることとして理解しておきましょう。

 

まとめ

文中でも説明した通り、日本では労働者側の権利が法律で手厚く保護されているため、あまり「会社都合での退職」というのは起こりにくいでしょう。

 

しかし、経営状況など景気の変動によって、今後そう入った場面に訪れることもあるかと思いますので、その際は弁護士などの専門家に相談した上で、慎重に進めることを推奨致します。

 

 

 

この記事を書いた弁護士は…

 

サンカラ

サンカラ