たきざわ法律事務所

他社ブランドへのタダ乗りは違法?メルカリ事件について解説します。

この記事を書いた弁護士は…

 

 

 

1.はじめに

フリマアプリ上で「♯(ハッシュタグ)」を用いて他社商品名を表示し、他社商品と同一の出品物を販売する行為が、商標権侵害に当たるかが争われた訴訟で、大阪地裁は商標権侵害を認め、フリマアプリの出品者に対し、表示の差止めを命じる判決を出しました。

本コラムでは、この事件(以下、「本件」)の判決内容について解説していきます。

 

2.商標権侵害の考え方

2.1 商標権侵害とは

商標権侵害とは、①他人の登録商標をその指定商品・指定役務について使用する行為(商標法25条)及び、②他人の登録商標の類似範囲において使用する行為(商標法37条1号)をいいます。また、このほかにも③上記①②の侵害を惹起する蓋然性の高い予備的行為を侵害とみなしています(商標法37条2号から8号)。

上記の①〜③の行為が行われると、その行為者が商標権の効力の制限等の抗弁を主張することができる場合を除き、商標権者はその行為者(被疑侵害者)に対して差止め(商標法36条)や損害賠償(民法709条)を請求することができます。

2.2 商標権侵害の要件

商標権侵害が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります。

(a)被疑侵害者による標章の使用であること

(b)被疑侵害者の標章が登録商標と同一・類似であること

(c)被疑侵害者の標章が使用されている商品・役務が登録商標の指定商品・指定役務と同一・類似であること

2.3 商標の同一・類似

上記要件のうち(b)の商標の類否判断については、対比される両商標の外観・称呼・観念等によって需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に観察し、その商標を同一又は類似の商品・役務に使用した場合に、出所混同を生じるおそれがあるか否かにより判断されます(最判S43.2.27「氷山印事件」)。

もっとも、商標権侵害の成立のために、具体的な混同のおそれが要件とされることはないのですが、商標の類否を判断する際に、取引の実情が参酌されることはあります。侵害の成否を判断する場面においては、被疑侵害者の標章と商標権者の登録商標の両方が実際に使用されていることが多いからです。

2.4 商標権侵害の主張に対する抗弁

被疑侵害者は、商標権者の権利行使に対する抗弁として以下のような抗弁を主張することができます。

  • 先使用権(商標法32条)
  • 商標権の効力の制限(商標法26条)
  • 商標的使用論
  • 無効の抗弁(商標法39条で特許法104条の3第1項準用)
  • 権利濫用の抗弁 等

これらの抗弁のいずれかが認められると、被疑侵害者は侵害責任を免れることができます。

2.5 商標的使用論

商標権侵害が成立するためには、被疑侵害者による商標の使用は、商標法2条3項各号に定める行為であるだけでは足りず、商標としての機能を果たすような態様での商標の使用(これを「商標的使用」といいます)でなければいけません。すなわち、被疑侵害者による商標の使用は、自他商品・役務識別機能ないし出所表示機能を発揮する態様での使用でなければならないと解されています。

商標的使用にあたるか否かは、需要者が被疑侵害者の標章を自他商品・役務識別標識として認識するか否かによって判断すべきものであり、その判断においては、その自他商品・役務識別力の強さ、表示の付された位置、他の商標が使用されているか等の諸般の事情を総合的に考慮する必要があります。

なお、商標的使用論は、平成26年改正により一部明文化されました(商標法26条1項6号)。

 

3.事件の概要

3.1 原告

原告は、アパレル商品等の製造・販売をする京都市の企業で、登録商標「シャルマントサック(以下、「本件商標」)の商標権者です。

 

本件商標:

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/TR/JP-2019-067402/C895A2FF3266A456D67CACF508AE1B747AB2D86DCB3829C3444BFBB559035765/40/ja

3.2 被告

被告は、フリマアプリ上でハンドメイド作品を中心に販売する主婦です。

 

被告標章:

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/606/090606_option1.pdf

 

 

本件は、被告がフリマアプリ上でハンドメイドの巾着型バッグを販売する目的で、フリマアプリ上の自己のウェブページ(以下、「被告サイト」)に検索用ハッシュタグとして「#シャルマントサック」(以下、「被告標章1」)と表示した行為が、原告の保有する本件商標権を侵害するとして、原告が、上記サイトにおける被告標章の表示行為の差止め(商標法36条1項)を求めた事案です。

 

4.主な争点

  • 本件商標権の指定商品と被告商品との類否
  • 本件商標と被告標章1の類否
  • 商標的使用の有無

 

5.裁判所の判断

5.1 本件商標権の指定商品と被告商品との類否

裁判所は、被告が被告サイトにおいて販売している巾着型バッグは、本件商標権の指定商品「かばん類、袋物」と同一であると判断しました。

 

5.2 本件商標と被告標章1の類否

裁判所は、本件商標と被告標章1の類否を判断するにあたって、両商標を同一又は類似の商品に使用した場合に、その商品に使用された商標が「外観」「観念」「称呼」等 によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察を行ない、本件商標と被告標章1とでは、外観及び称呼において類似することから、全体として本件商標と被告標章1は類似すると判断しました。

 

【判決文】

(ア) 外観

 本件商標と被告標章1との外観上の差異は,被告標章1に含まれる記号部分「#」 の有無のみであり,少なくとも類似といってよい。

(イ) 称呼

 被告標章1の記号部分は一見して明らかに記号であるため,特定の称呼を生じることはないと思われる。そうすると,本件商標と被告標章1とは,称呼において同一であると認められる。

 仮に上記記号部分につき「ハッシュ」ないし「ハッシュタグ」又は「シャープ」の 称呼を生じると考えても,本件商標と被告標章1とは片仮名部分において共通することから,なお両者は称呼において類似するといえる。

 (ウ) 観念

 弁論の全趣旨によれば,本件商標の「シャルマントサック」は造語であると認められるところ,これは,取引者及び需要者にとって特定の意味を持つ単語とは理解されない(なお,この点について,原告は,原告の商品が人気ブランドであることに鑑み原告の商品を観念させると主張するが,当該片仮名部分から取引者及び需要者(一般消費者が想定される。)が原告の商品を直ちに想起すると認めるに足りる証拠はない。)。このことは,被告標章1の片仮名部分についても同様である。他方,被告標章1の記号部分は,上記のとおり一見して明らかに記号であるため,特定の観念を生じることはないと思われる。そうすると,本件商標と被告標章1とは,いずれも,特定の観念を生じるものではない。

 なお,被告サイトが開設されているメルカリにおける具体的な取引状況(甲7,10)をも考慮すると,被告標章1の記号部分は,商品等に係る情報の検索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であることを示す記号として理解されるものともいえる。そうすると,被告標章1は,特定の観念を生じない片仮名部分「シャルマントサック」なる商品等に係る情報の所在場所との観念を生じるとも考えられる。

 

5.3 商標的使用の有無

下記資料の通り、被告サイトにおいては被告標章1の表示だけでなく、「#ドットバッグ」等のハッシュタグも使用されており、さらに、その後(ハッシュタグの直下)には「好きの方にも…」という文字の記載もあります。

 

【実際の商品ページ】

 

出典:裁判所のウェブサイト(添付書類文書2の頁6〜7)

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/606/090606_option2.pdf

 

被告によれば、このような使用態様は、ハッシュタグによりタグ付けした「ドットバッグ」「シャルマントサック」等を「好きな方」に向けて、タグ付けされた事項に関連する情報が被告サイトに存在することを表示しているものであって、他のユーザーが検索する際の便宜を図っているに過ぎないため、被告標章1の表示も商標的使用に該当しないとの主張でした。

これに対し、裁判所は、被告標章1のほかに上記資料掲載の表示がなされていた場合であっても、被告標章1の表示により、被告サイトに原告の登録商標である「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名のものがある、と需要者に認識させることになるため、被告標章1の表示は、需要者にとって、「出所識別標識」及び「自他商品識別標識」としての機能を果たしている(商標的使用に該当する)と判断しました。

 

【判決文】(下線等の強調は筆者による)

 前記のとおり,オンラインフリーマーケットサービスであるメルカリにおける具体的な取引状況をも考慮すると,記号部分「#」は,商品等に係る情報の検索の便に供する目的で,当該記号に引き続く文字列等に関する情報の所在場所であることを示す記号として理解される。このため,被告サイトにおける被告標章1の 表示行為は,メルカリ利用者がメルカリに出品される商品等の中から「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供することにより,被告サイトへ当該利用者を誘導し,当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものといえる。このことは,メルカリにおけるハッシュタグの利用につき,「より広範囲なメルカリユーザーへ検索ヒットさせることができる」,「ハッシュタグ機能をメルカリ上で使うと使わないでは,商品閲覧数や売り上げに大きく差が出ます」などとされていること(いずれも甲7)からもうかがわれる。 また,被告サイトにおける被告標章1の表示は,メルカリ利用者が検索等を通じて被告サイトの閲覧に至った段階で,当該利用者に認識されるものである。そうすると,当該利用者にとって,被告標章1の表示は,それが表示される被告サイト中に「シャルマントサック」なる商品名ないしブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識することとなるこれには,「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名のものである」との認識も当然に含まれ得る 他方,被告サイトにおいては,掲載商品がハンドメイド品であることが示されている。また,被告標章1が同じくハッシュタグによりタグ付けされた「ドットバッグ」等の文字列と並列的に上下に並べられ,かつ,一連のハッシュタグ付き表示の末尾に「好きの方にも…」などと付されて表示されている。これらの表示は,掲載商品が被告自ら製造するものであること,「シャルマントサック」,「ドットバッグ」等のタグ付けされた文字列により示される商品そのものではなくとも,これに関心を持つ利用者に推奨される商品であることを示すものとも理解し得る。しかし, これらの表示は,それ自体として被告標章1の表示により生じ得る「被告サイトに掲載されている商品が「シャルマントサック」なる商品名又はブランド名である」との認識を失わせるに足りるものではなく,これと両立し得る。 これらの事情を踏まえると,被告サイトにおける被告標章1の表示は,需要者にとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見られる。すなわち,被告標章1は,需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様による使用すなわち商標的使用がされているものと認められる。これに反する被告の主張は採用できない。

 

5.4 小括

以上のことから、裁判所は、被告サイトにおける被告標章1の表示行為が、指定商品についての登録商標に類似する商標の使用(商標法37条1号)に当たり、本件商標権を侵害すると判断しました。

 

6.さいごに

本コラムでは、ハッシュタグで他人の商品名を使用する行為が商標権侵害と認められた事件について解説しました。

今回のフリマアプリだけでなく、多くのネットサービスにおいてハッシュタグが当たり前のように現状使われています。本件は、特にハッシュタグを使って商品を販売しているようなユーザーにとっては非常に影響のある判決だと思われます。

一方で、自社ブランド名の「ただ乗り」行為に悩まされる企業にとって、「ただ乗り」対策の1つの事例として非常に参考になる事件だと思われます。たきざわ法律事務所では、知財を中心としたブランド保護のご相談もお受けしています。自社ブランド名の「ただ乗り」行為にお困りの企業は、ぜひ当事務所までご相談ください。

 

 

 

 

 

 

 

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